ベトナムの首都、ハノイ
ただ、Eコマースが浸透しないにしても、ベトナムは人口が1億人を超えていてF1層、20歳から34歳までの女性が多く、小売業界の市場としてはかなり大きい。だから、ベトナムではいま、「アナログのリテール」が市場参入のチャンスだと考えたんです。
そこで僕たちは、2017年11月に、ベトナムのアパレル企業を買収してベトナム市場に参入しました。そのときは、スタートアップ時代──つまり20年前のリテールの運営ノウハウをそのまま、ベトナムに適用させることで高収益を記録しました。
──過去のノウハウをそのまま活かすことができたんですね。
はい。海外展開はそれぞれの会社が持つ強み弱みによって、「勝てる」戦略が変わっていく。僕たちは、東南アジアや東アジアに注目していきたいと考えています。
日本ブランドの海外展開、ローカライズには「順序」がある
──日本ブランドが海外展開をするときは、サイズやカラー展開など、その地域に合わせて「ローカライズ」した方がいいのでしょうか?
ローカライズには順序があると考えています。その地域に進出したばかりのときは、実はローカライズせず、日本で売れていたブランドをそのままの状態でオープンした方が売れるんです。
なぜなら、そのブランド自体にインバウンド(訪日客)のファンがついていて、現地での需要があるから。「変に現地感を出してほしくない」というニーズさえあるくらいです。
──ローカライズしない、というのは意外でした。
ただ、進出してから1年ほどが経過すると、いままで来ていた「ミーハーなファン」たちがあまり来なくなります。
今度はブランドのことを知らない、現地のユーザーを相手にしなくてはいけなくなる。そうすると、ブランドを相当ローカライズしていかなければ、現地で生き残っていけません。
つまり、1年目のユーザーは、ブランドをもともと知っているインバウンドのユーザー。2年目からは、ブランドのことを知らない現地のユーザー。海外展開したあとに、どんどんユーザーの属性が変わっていくんです。
──テクノロジーと同じで、アーリーからマジョリティーに移行する流れを理解する必要がある、ということでしょうか。
その通りです。ユーザーの属性遷移を意識しながら、「どの段階でマーケティング戦略を変えるか」という判断が、ブランドをローカライズさせていく上では非常に重要。それが海外での戦い方ですね。
アメリカと中国にない、日本の「強み」は?
──いまの小売業界は、アメリカと中国が二強だと思います。日本が世界で戦っていく上で、その二カ国にはない「強み」はあるのでしょうか?
スケールはしないかもしれませんが、「ジャパンクオリティ」「匠」「メイドインジャパン」といった言葉で象徴される「クオリティの高さ」は日本の強みですね。この点においては、アメリカからも中国からも一定のリスペクトをもらえている。
日本は、小売業界において、コンテンツやプロダクトで存在感を出していった方がいいと思います。クラウドも含めて、テクノロジーで日本が中国に対抗しようとしても、絶対に負けるのが目に見えている。
アリババクラウドなど、海外の最新テクノロジーをうまく使って、日本の強みを活かしながら戦っていくことが、これからの小売業界では重要ですね。
石川康晴の「新しい小売の形」
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