しかし、ヴァンガード社のヨーロッパにおける投資製品を統括するマーク・フィッツジェラルドは、詳細事項に必要以上に拘泥するのではなく、人権の尊重度というようなより高次の概念を選定基準にしてふるい分けを行っているのだと説明している。
アメリカン・センチュリー社が名称変更をほどこした前述のサステナブル投資ファンドは、MSCI社のセステナブル投資関連調査部門や、サステイナリティクス社が蓄積したデータを頼りに、ポートフォリオの再検討を実施した。エクソンモービルなどの株式を売却したのだ。
「気候変動対策という観点で、エクソンモービルは業界を先導する企業ではないからだ」と、リーランドはその理由を説明する。ただし、同ファンドはコノコフィリップス株を保持したままだし、マラソン・ペトロリウム株を新たに買い入れもした。加えて、世界的なたばこ会社であるフィリップモリス・インターナショナル株も手放していないが、それについてリーランドは、同社が電子タバコの普及に力を入れているからだと理由を説明する。しかし建前抜きの動機として、「あらゆる調査研究を検討した結果、フィリップモリス株を持っていればよりよい投資成績を上げることが期待できたからだ」とリーランドは語ってくれた。
20億ドルを運用する「アヴェマリア」はカトリック教会の規範にそぐわない企業は投資対象から除外している。妊娠中絶に手を貸している企業はもちろんだが、ホテルについても、アダルト映像作品を貸し出しているという理由から除外している。とはいえ、罪深いはずの企業がアヴェマリア社の投資対象となっている例もある。同社のライジング・デヴィデンド・ファンドはジェット戦闘機の部品を製造しているヘクセル社や、酒造メーカー、ディアジオの株を保有しているのだ。「イエス・キリストが最初に起こした奇蹟は、水をワインに変えたことだからだ」と、同社のポートフォリオ管理者ブライアン・ミリガンは説明する。
この問題の一端は、データに瑕疵があることと、判断基準の標準化がなされていないことに帰せられる、とイェール大学教授でサステナブル投資を研究するダニエル・エッツィはいう。温室効果ガス排出量についても、供給チェーン全体の排出量を含めている企業があるいっぽうで、自社施設の排出量のみを対象としている企業もあるからだ。そういったニュアンスを理解できる人が少なく、たいていのリポートは叩けば埃が出るようなものになっているという。