母の女子化で「母娘消費」に変化 90年代コンテンツブームの背景

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お母さんの口紅をちょっと拝借し、大人っぽい自分を楽しむ経験。女子であればきっと身に覚えのあるであろう幼少期のワンシーンですが、今の時代、この母と娘の疑似体験が「双方向」になっています。母が10代~20代の娘の靴やバッグ、服を借りてフレッシュな自分を楽しむのが、今や普通の光景なのです。

この春、1990年代に人気を博した少女漫画「ママレードボーイ」が、今をときめく俳優によって実写化されました。公開前から注目を集めた一方、「20年経って、なぜ今実写化なのか?」と疑問の声も多くありましたが、私は、原作の連載から「20年」という時代のギャップが、絶妙な狙いだと考えています。

少女漫画特有のわかりやすい胸キュンストーリーが響く10代〜20代の女子だけでなく、20年前に「ママレードボーイ」にときめいていた原作世代もしっかりターゲットに据えているからです。

もちろん、これまでも母娘共同の消費はありました。しかし今、母娘消費はより進化し、ジャンルも多方向に広がっています。今日はその実態と背景について考えてみます。

まず大きな流れとして、「これなら共有できる」のハードルがどんどん下がっています。かつて母世代にとって娘のアイテムは、派手すぎない色やデザイン“なら”共有できる、だったはずが、いまは多少派手“でも”手を出せるようになっている。これまでは「冒険」だったアイテムにも挑戦できる母たちが増えているのです。

おそらく、その背景にあるのは「母の女子化」。「共同」という実利的な理由よりも、「娘と一緒」「お揃いを楽しむ」ということで気分を高めるという動機がそこにあります。

そして、この母娘消費が浸透したことで、母娘で使うことを念頭に置いた購買が増えています。二人で使えることは、母親とっては「娘と一緒に使えるなら割安か」と購入を後押しする材料なり、それにより娘世代は、自分ではなかなか手が出せないブランドも背伸びして楽しむことができます。高価格帯ブランドにとっては嬉しい事象ではないでしょうか。

また最近の特徴として、母娘消費がファッションやメイクにとどまらず、音楽や映画、漫画などコンテンツ分野に拡大しています。

先述の「ママレードボーイ」でも、時間差実写化と並んで妙を感じるのが両親役のキャスティング。中山美穂さん、檀れいさん、谷原章介さん、筒井道隆さんと、母が娘の年頃だったであろう1990年代にトレンディドラマや宝塚を華やがせた面々がズラりと並ぶのです。

音楽ジャンルでも、アムラーブームから20年、引退が迫る安室奈美恵さんのラストライブツアーにも母娘の参戦が目立ち、1999年にデビューした嵐には母娘ファンが多いと聞きます。

世代を超えて、共通のコンテンツに、一緒に笑い、一緒に感動し、一緒にはしゃぐ。母親世代と娘世代、どちらもが「女子」として盛り上がれるコンテンツは強いです。

トレンディドラマやバラエティ番組、たまごっち、ギャル、小室サウンド、ビジュアルバンドなど、20年前のコンテンツを振り返り、「母娘」という視点で捉え直してみる。それが、新たなブームを巻き起こすコンテンツ創りになっています。昨年末の紅白にかけてバブル期への注目が集まりましたが、母娘女子をくすぐる90年代コンテンツは今年も大きな波を起こしそうです。

文=山田茜

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