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2018.05.13

10年で約25倍、急成長するソーシャルビジネスの現場

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コレクティブ・インパクトの国内事例はこれに止まらない。昨年10月、「みんなの力で教育格差をなくそう」という思いに共鳴する行政・NPO・企業が連携し「スタディクーポン・イニシアチブ」が発足し、第一弾となる渋谷区でのプロジェクトについて発表された。

これは、貧困世帯に暮らす渋谷区の中学3年生約30名を目標に、塾や家庭教師、NPOなどの学校外の教育機関での授業料に充てられる「スタディクーポン」を提供しようというもの。今年度4月から、1人につき1年間で20万円相当のクーポンを配布することを目標に、クラウドファンディングでの寄付を呼びかけた。

54人の中学生に年間20万円を支援

今、日本に暮らす7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされ、経済的な困難は教育にも影響を及ぼしています。中学3年生では「親の収入」が高くなるにつれ「塾代などの学校外教育支出」も多くなる傾向があるというデータもある。こうした「塾代格差」を解消し、全ての子どもたちに平等な教育機会を提供するのが、スタディクーポン・イニシアチブの狙いだ。

学習塾のような集団型の授業をしてきた事業者、大手を含めた家庭教師の事業者、不登校の子どもに特化した学習指導を提供するNPO、相談活動も行いながら子どもたちの様子を見ていけるような団体まで、幅広く参加しているのが特徴だ。

このイニシアチブの代表を務める公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」代表理事の今井悠介さん(30)はコレクティブ・インパクトのアプローチに期待を寄せる。


スタディクーポン・イニシアティブの今井悠介代表、長谷部渋谷区長、NPO法人キズキ理事長の安田祐輔さん (c)スタディクーポン・イニシアティブ

「子どもの貧困問題や教育格差というのは、子どもたちの抱えている課題やニーズの幅が広い。みんなと一緒に塾に通って解決できる子もいれば、定期的に訪問して相談に乗るということからしっかりサポートしていかなくてはいけない子どもいます。そうした個別のニーズになかなか対応できないというのは、自治体のみなさんが長年で感じて来られた部分だと思うんです。スタディクーポンの仕組みを使えば、地域にいる様々な事業者やNPO、さらにはオンラインで全国の事業者さんも、この活動に参加してもらえるようになります」

クラウドファンディングでは目標額を上回る1400万円が集まった。4月から申し込みのあった54名全員の中学3年生に年間20万円のクーポンを提供する事ができた。早速事務局には、「春期講習を受けられないと思っていたけど、クーポンで受講できるようになった」「行きたいと思っていた塾に通えるようになって親子で喜んでいます」と子どもたちから声が届いた。


(c)スタディクーポン・イニシアティブ

今井さんは「渋谷区での取り組みをベースに、これから全国の色々な自治体と連携して広げていくことを目標としています。地域外から『私もスタディクーポンが欲しい』『僕も勉強したい』という声があるので、しっかりと広げていきたい」と語る。

ソーシャルビジネスの現場は日々進化している。若い起業家たちが、実績を積み重ねてきた既存の企業や自治体などと協業しながら、新たなサービスのあり方を創り出している。破壊的ではない、協業する非破壊的イノベーションの現場に期待が膨らむ。

この連載では、支援を待つ人々と、新たなビジネスの仕組みを取り入れ持続可能で新たな付加価値を生み出すソーシャルビジネスの担い手たちをルポしていく。次回、は発達障害の子どもたちの支援と臨床心理士の雇用拡大を結びつけた国内でも珍しいチャレンジを紹介する。

文=堀 潤

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