ビジネス

2018.05.15

なぜ若者は170万円払って海外医療ボランティアへ行くのか?

吉岡秀人(左)、大西洋(右)


吉岡:堀江貴文さんが、「社会構造が変わり、お金の価値がなくなるから早く使ったほうがいい」と発言していましたが、仮に1億円あったとしても10年後にはそれだけの価値を持たなくなるかもしれない。それよりも、いま人助けに使ったほうが有意義でしょう、というような考え方が、若い人たちを中心に広がっているとも見ることができます。

大西:いまの日本では、「労働力不足」と言われる一方で、AIやロボットなどにとって変わられる仕事もたくさんあります。ベーシックインカム(最低限所得保障)のような制度が導入されれば、極端に言えば、人は働かなくても食べてはいけるようになります。そのときに、何をやりがいや生きがいにするのか、ということにもつながってきますね。



吉岡:昔はモノがあれば豊かになれましたが、モノがあふれているいまは、人から必要とされることや、期待されることがないと心が満たされなくなっているのでしょうね。そしてそれを自分で発見しないといけないという、ある意味たいへんな時代になっているのだと思います。

大西:会社でサラリーマンとして勤め上げ、引退してから「社会に恩返しをしよう」という考え方とは異なり、自分のキャリアのなかに社会貢献を据えていこうと考える人が増えてきましたね。経営者として学生や若い社員たちと接してきましたが、以前に比べて、ベンチャー志向の人や仕事を通じて社会貢献をしたいという人が増えているのを実感しています。

吉岡:かつては引退後の年長者の方たちがNGOに参加するというケースが多かったのですが、ここ2〜3年、若くて優秀な人がどんどん応募してきたりしています。大型NGOと商社や銀行などが優秀な人材を奪い合うような構図すら現れ始めています。

もちろん、中高年の方もいます。人生100年時代に突入し、人生というマラソンをより長く走らなければならない時代に、自分の人生にとって大切なことは何なのかを明確に定めることが求められています。そのキーワードとして、社会貢献はこれからますます注目されていくのだと思います。自分の12歳の子どもも、すでに「僕も社会の人々のために働きます!」なんて言っていますから。

大西:それは頼もしいですね。

吉岡:小学生から大学生までを対象にした2泊3日の社会貢献学習ツアーもいつも定員でいっぱいです。子どもも含めて、社会を良くすることを考え、活動することが当たり前の時代に突入してきています。

大西:先ほどの活動費を自己負担してでも、海外ボランティアに行くのと一緒ですね。

吉岡:若い世代の人たちは、お金を払ってでもボランティアを体験したいし、社会を良くしたい、当たり前にそこにお金を投下するのです。感覚がいままでとはまったく違うのです。僕はそういう人たちに、自分が出して自分で使うのだから丁寧に使うように、そして何が起こっているのかきちんと自分の目で確かめなさい、と言っています。

大西:われわれはこれまでモノの豊かさのために働いてきて、経済の循環もそこを基準としてきましたが、これからは心の豊かさがベースになるという思いをさらに深めました。モノによる満足か、心の満足か、どちらを重要視するか。そのバランスが逆転するというエポックメイキングな時代がいまなのですね

ゴッドハンドは要らない


大西:最近は国内での活動も増えてきたと聞いていますが。

吉岡:国内では東日本大震災復興支援と「すまいるスマイルプロジェクト」や地域医療支援などを行っています。東日本大震災のときには、現在のオフィスに移転した直後だったのですが、ここから医者や看護師など500人から600人の医療従事者を現地に送りました。

最初の1週間、薬が手に入らなかったのは大変でした。政府が処方箋なしに薬が出回るのを嫌い、「民間には薬を渡さないように」と関係各社に通達を出したのです。なんとか開業医の方から集めたり、アメリカから送ってもらったりして乗り切りましたが。
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文=松下久美 写真=小田駿一 編集=稲垣伸寿

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