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また今回、ブロックチェーン技術による電子処方箋管理の特許を出願した理由は、今の電子処方箋の運用方法が抱えている課題を解決したいためです。

現状も電子処方箋自体は認められているのですが、運用例として示されたのは、医療機関が患者さんに「電子処方箋引換証」という紙を渡して、それを調剤薬局に持って行き、薬と引き換えるというフロー。電子化といいつつ、運用はアナログです。しかも技術的な面でも、実現性の高い管理方式が提示されておらず、実際の運用はほとんど紙のみというのが現状です。これでは医療機関、患者さんの両者にとって良い状態ではありません。これをなんとか変えていきたい。

まずは医療領域全体のIT化を進める土壌を整えること。それが進んでいくことで、私たちの提供しているサービスの有用性が高まり、医療機関、患者さん、そして結果的に自社の利益に繋がると考えています。

──アメリカは、なぜ医療のIT化が進んでいるのでしょうか?

端的に言うと、国が医療機関に対して、IT化によるメリットを提示した上で、患者さんの症例データなどを統一したフォーマットに整えて第三者機関へ提出するよう要請したからです。各医療機関は効率性を求めてその要請に応じますが、膨大な患者データを手書きでできるわけがないので、電子カルテを使うようになり、インフラ化してIT化が進んでいったわけです。

アメリカは医療がビジネスとして捉えられている面があるので、それをしないと他に遅れを取ってしまう。だからみな能動的にIT化を進めます。一方で、日本の場合は国民皆保険制度があり、医療は人々のセーフティネットとして存在する。つまり、医療機関で働く医師たちが、これまでどおりのアナログなオペレーションが回せているところを、あえてIT化するメリットを感じることができないのです。全体の構造として、IT化によるインセンティブが明確に示されていないのが問題。日本の医療のIT化が進まないのは、現場がボトルネックなのではなく、現場をボトルネックにしてしまう仕組み自体なのだと思っています。

アメリカのような「医療をIT化していく文化」を日本でも根付かせるためには、今のままでも問題なく回っている医療現場に対して「なぜそれをやらなければいけないのか」の理由やメリットをストーリーとして語っていく必要がある。医療機関と患者さんの両者にとって本質的に良いものを提供するサービスを実際に利用してもらい、成功事例を少しずつ増やしていくことで、医療機関や患者さんがIT化によってどんなメリットが得られるかを、世の中に提示し続けていかなければいけません。

──豊田さんは、今取り組まれている「医療×IT」化の先に、どういった医療の未来を描かれているのでしょうか?

これまで医療機器や技術は大きく進歩してきましたが、その進歩と同じくらい医療によって幸せになる人が増えたかと問われると、そうではないように感じています。今後の医療において重要になってくるのは「納得感」です。

これは私が脳外科医として従事していたからより強く感じることなのですが、脳に麻痺が残り寝たきりになったとしても、生命を維持したままにするのか否かは、本人とご家族が決めるしかありません。

つまり、もしその人が亡くなったとしても、本人も家族も納得していたらすごく幸せな死に方だと思いますし、どんなに頑張って最高の医療を提供しても、本人や家族の本意ではない形で亡くなっていったら、それは良い医療ではないと思うんです。

極端な話、便利だからといって患者さんに無理やりオンライン診療などの新しい医療を使わせようとしてストレスを感じさせてしまうのであれば、それは使わないほうがよい。医療のIT化は、あくまでも個人やその家族が、「より良い医療を受けられた、選べた」と納得するために、より能動的に医療に関わるためのサポートです。私たちはそのサポートをより強固にし、患者さんたちの「医療に対する納得感の最大化」がIT化によって図れると信じています。

文=小野瀬わかな 写真=林孝典

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