8年前、私は独立し、前職からの継続の仕事がゼロのまま、会社を設立しました。4カ月後に、東日本大震災が起こり、日本中の広告制作が止まりました。不安になった時、市川さんのご自宅で聞いた逸話を思い出しました。
携帯電話などない時代。独立してフリーのCM監督になった市川さんは、仕事がなくて不安で不安で、一日中、自宅の黒電話機の前に座っていたと。
その後、「私はこれで、会社を辞めました」の禁煙パイポのCMの依頼が入ってきて、それが大ヒットして、すべてが変わったと。
「ひとつのCMが自分を救ってくれたんだよね。だから、思うようにしてるんだ。面白いCMというのは、人の何かを変えられるんじゃないかと」
市川さんは、人間の愚かさを、不完全さを愛おしんでいました。
そして、CMへの揺るぎない愛があったから、CMを見る人の感受性、寛容さを信じて、心を揺さぶる強い表現をつくり続けられたのだと思います。
根本に、自分がやっていることへの「愛」と「本気」があるかどうか。
市川さんと仕事ができたおかげで、今の私があります。
市川さん、ありがとうございます。
私の送別会にもらったプレゼント。市川さんが『ほんだし』の演出コンテの1コマを描き直して額装してくれました。引越しを5回しても、大切に飾っています
次回、「無能だった私を変えてくれた凄い人たち」2人目は、女優、樹木希林さんです。