ビジネス

2018.05.18 18:00

日本流「自分らしさを極める」組織のあり方とは?

オズビジョン、鈴木 良社長


本社オフィスを撤廃
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朝9時になるとパソコンを立ち上げて会社のコミュニケーションツールにログイン。「おはようございます」と自分のタイムラインに書き込む。毎朝配信される社長の音声メッセージを朝礼代わりに聞き、画面に並んだ同僚の顔写真(2分毎に自動更新される)をクリックして「最近どう?」と雑談する。

同僚は広島、浜松、神戸、東京と各地に散らばるが、掲示板で各自の仕事の進行具合もわかる。プライベートや仕事であったことを日記に書いてアップロードし、午後5時には「お疲れ様でした」と入力してログオフ。家に帰ってくる子どもを待つ。

16年に本社オフィスを「撤廃」し、全従業員がリモートワークで働くソニックガーデンは、上司も部下もいない。「私はプログラマーの仕事が好きです。自分を曲げずにそれを一生続けられるようにしたかった。管理するのもされるのも嫌いで、今の会社はそれを突き詰めた結果です」と社長の倉貫義人は話す。
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倉貫がシステムインテグレーターの大手企業に新卒で就職した1999年当時、プログラマーは3Kの過酷な仕事だった。「言われたコードを書くだけの人夫。周りはもうやめたい、コンサルタントになりたいと言う人ばかり。働き方を変えたかった」。

好機がきたのは09年。社内ベンチャーのソニックガーデンを立ち上げた。しかし、トップダウンで命令しても、計画は進まず売り上げも伸びない。「プログラマーは職人の仕事。命令していいプログラムが書けるわけではないし、生産性は上がらない」。

悩んでたどり着いたのがセルフマネジメントだ。「管理して統制するよりプログラマーの自主性を重んじた方が生産性は高いというアジャイル開発の考え方です」。セルフマネジメントのため、社の情報は全てオープン。有給休暇取得も経費精算も自由裁量で承認がいらない代わりに全従業員に共有される。リモートワークを推進し冒頭のコミュニケーションツールを開発した。

ビジネスモデルは月額定額の受託開発にし、プログラマーが客のコンサルティングから開発まで担当する体制だ。

このような会社の仕組みや自身の考え方をブログに書いていると、問い合わせや開発依頼、入社希望者から連絡が舞い込むようになった。11年にMBO(経営陣買収)を実施し設立。売上高は非公開だが、大手企業からの依頼も増えているという。

同社は給与がほぼ一律、ボーナスは山分けという報酬体系。どうやって優秀な「職人」を維持するのか。「給料はベーシックインカム。時間が報酬です。腕が上がって仕事が短時間でできるようになると、残りは勉強の時間にできます。技術者は将来を見据えて勉強をしないと、数年後には仕事がなくなってしまう。勉強して生産性が上がれば、さらに自由な時間ができます」。

プログラマーの理想の働き方は、現代の働き手の多くにとってもメリットがある。

「不公平はやりたくない」

「誰かが損するような不公平は絶対やりたくない。許せないんです」と語気を強める武井浩三が社長を務めるダイヤモンドメディアは肩書も役割も各々が決める。「管理しないのではなく、仮想通貨のようにマネジメントが社内に分散している。代表役員も毎年社外の人も交えて投票で決めます。お祭りみたいですよ」


ダイヤモンドメディア代表取締役 武井浩三

武井は起業で失敗した苦い思い出がある。米国に音楽留学して帰国後、22歳で友人を誘って創業したが「大失敗」した。大学や大手企業を辞めて手伝ってくれた友人の人生をめちゃくちゃにしてしまったと悩んだ。経営書を読み漁り、出会ったのがブラジルのコングロマリット「セムコ」だった。

「皆同じ権利を持ち、階級や役職の違いがなく、お互いを補いながら仕事する。周りに迷惑をかけなければ自由。そういう会社をつくりたい。失敗した自分だから、やらないといけないと思った」。

創業すると、集中した権力が発生しないように気を配った。情報は徹底的に開示。給料は半年に一度の「お金の使い方会議」で従業員同士が相場を話し合って決める。「新卒1年目のアウトプットしか出してない」など率直な意見も飛び交うが、全従業員が社の金の使途を真剣に考える場になっている。

売り上げ目標もない。しかし、独特の組織が社の成長に貢献している。不動産業界向けのITサービスなどを提供する同社は、業界の情報透明化や健全化に10年近く取り組んできた。「この組織だから価値あることに投資できる。共感するお客さんや社外の人が増え、業界団体からの信頼も得ています」と武井は微笑む。

「今後、人口減少とともに日本経済は縮小します。売り上げ増を会社の存在目的にしても持続しない。自然の摂理に任せた自然体の経営スタイルを広めたいと考えています」
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文=成相通子 写真=宇佐美雅浩

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