「人とロボットの理想的な協働」 その秘訣はリスペクトにあり

カリフォルニア大学サンタクルーズ校代理准教授 レイラ・タカヤマ


利用者の参加型デザイン

フィールドテストを通して、パイロットやローカルがどうロボットに対処するか目の当たりにしたタカヤマは、常に、利用者目線でロボットを開発することを重視している。

「ロボットというと、どうしても技術の産物という印象が強いのです。それを人間中心のデザインにすることが私にとってのゴールです。そのためには、人をデザインサイクルに組み入れていくような“参加型デザイン”をする必要があるのです」

自分の頭で考えたデザインではなく、人々が抱えている問題を的確にとらえ、それを解決するようなデザインが、仕事の効率や生活の質の向上に繋がるというのだ。そのため、タカヤマはロボットを利用しそうな人々にインタビューを行った。例えば、老人ホームの入居者たちだ。タカヤマは、入居者たちは、孫や子供がロボットとして老人ホームに訪ねてきたら喜ぶだろうと考えたのだ。しかし、実際に入居者たちにインタビューしてみると、彼らは親族のロボットに訪問されたい以上に、自身が外出したいと考えていることに気づいた。自身がロボットとしてコンサートに行ったり、家族と野球観戦に出かけたりすることを望んでいたのだ。

想像していたアイデアとは異なる結果を得たタカヤマにインスピレーションがわいた。そうだ、博物館にロボットを置こう!

そうそれば、博物館に行くことができない人々でもロボットとして行き、楽しむことができる。タカヤマのアイデアは生かされ、現在、サンタクルーズにある科学博物館にはロボットが置かれ、来館できない人々の分身となって館内を見学している。

現在は、人型自律ロボットの開発も世界的に進んでいる。職場で、人とロボットがよりよく協働するには、人と円滑にインタラクションができる“ヒューマン・フレンドリー”な人型自律ロボットを開発する必要があるからだ。

タカヤマもそんなロボットを作るべく、様々なアドバイスを行っている。それには自らの経験も手伝った。初めて遭遇したPR2というロボットの頭部が急速に回転したのに驚いたタカヤマはロボットの動きを低速にした。また、ロボットが人間らしい動きをするよう、ピクサーのキャラクターアニメーターと共同でモーションの研究を行った。その結果、すぐに行動に移すことができず思考している時は首を捻らせたり、動き出す前には、それを人々に予測させるために構えるようなポーズを取らせたりといったアニメのキャラクターがする動きを導入した。さらに、静止状態では、完全に停止していると人が“支配されている”という怖さを感じることから、生きているように微妙に動かすことで、安心感を与えるようにした。

利用者のパーソナリティーを分析

個々の利用者にカスタマイズしたロボットの研究も進めている。例えば、家庭用パーソナルロボットの研究では、利用者が、自分流のテーブルの拭き方をロボットに教えて、ロボットを自分用にパーソナライズすることを目指している。

昨年10月からは、日立のロボット“エミュー3”のパーソナライゼーションに取り組み始めた。エミュー3は空港やモールなどの公共の場で、人をガイドすることを目的として作られた人型サービス用ロボットだが、タカヤマは利用者のパーソナリティーを分析して、それに適応できるようなシステムをロボットに組み込もうとしている。

「心理学的に、人は自分と似ている人を好む傾向があります。ロボットが積極的な気質の場合、外向的な人は喜ぶかもしれませんが、反対に、内向的な人は引いてしまうかもしれません。話し方や態度など、ロボットを利用者のパーソナリティーにマッチさせようとしているのです」パーソナライズされたロボットは将来、職場でもその才能を発揮するようになるだろう。

「販売の場では、ロボットは客の個性に合わせて接客方法を変え、販売効率を上げることができるかもしれません。学校では、生徒の性格に合わせて教え方を変え、習得力向上に貢献するようになるでしょう」

ロボットで変わりゆく未来の職場に向けて、タカヤマの実験は今日も続く。


レイラ・タカヤマ◎カルフォルニア大学サンタクルーズ校代理准教授。「Hoku Labs」創業者。スタンフォード大学コミュニケーション学博士。ウィロー・ガレージ、GoogleXで研究員を務めた。ハワイ生まれの日系4世。日立が開発するロボット「エミュー3」と共に。

文=飯塚真紀子

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