「我々が機能するために欠かせない酸素のようなもの、それがAladdinだ」と語るのは、ニューヨーク・ライフ・インベスターズ社CEOのアンソニー・マロイだ。同社のように、利用料を支払いAladdinを活用している企業は世界で200社以上、ユーザーは2万5000人、モニタリングする資産は18兆ドルに及ぶ。1日に25万件の取引がこのプラットフォームで行われ、週に数十億件の市場予測が出されている。
このようにソフトウェアひとつがブラックロック社最大の強みになっているというのは偶然ではない。同社が1988年につつましく創業されて以来の共同創立者兼CEOであるラリー・フィンクは、データ分析とリスク管理技術をポートフォリオマネジャーやトレーダーの陰に隠れた2軍としてではなく、主役として扱ってきた。
「わが社の組織の根幹は、リスク管理とその技術を重視する考えのもとに成り立っている」とフィンクも語る。
ブラックロックが資産を獲得するたびに、Aladdinは洗練されていった。2006年にメリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ・インターナショナルを買収した際には、株式とヨーロッパ市場のモニター機能が追加された。その後、09年にバークレイズ・グローバル・インベスターズを買収した際には、上場投資信託(ETF)の機能が向上した。
08年のリーマン・ショックは大きな痛手だったが、財務省はAladdinを頼りに金融システムを守ろうとした。そしてその後の10年に起きた欧州債務危機では、アイルランドとギリシャの中央銀行に加えて、欧州中央銀行がAladdinを採用した。
Aladdinはリテール銀行の分野にも進出しようとしている。リスクの厳密かつ正確な数量化と、シナリオによる予測を頼りに、投資アドバイザーや個人がよりよい投資計画を立てることの手助けができるとブラックロックは考えているのだ。
「マーケットの動きを後追いする資産マネジャーよりもブラックロック社をはるかに重く見ている」というヘッジファンドからの声もある。また資産管理のこの巨獣を米アマゾンになぞらえて、「まるでアマゾンのように顧客の利便性を高め、力強く成長して、競争力を強化している」と評価する声もあるのだ。
ロバート・ゴールドスタイン◎ブルックリンで育ち、16歳でハイスクールを卒業すると、数々の私大からのオファーを断り、学費の割安なニューヨーク州立大学ビンガムトン校に進学。「代わりに新車を買ってやる」という父親の約束が大きかったようだ。