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シネマの女は最後に微笑む


唯一の女性組合幹部のグローリーは、「ここでは面の皮が厚くないと」とジョージーを諭す。会議で「女性専用のトイレの設置を」と訴え、「その御礼は?」とニヤつく男性に無表情でキツい性的冗談を切り返すさまは、グローリーがこの職場で「面の皮を厚く」して生きてきた証左だろう。だが彼女には、長年の仕事でようやく得た信頼と、生来の気の強さと、理解ある夫カイルの存在もあった。

ジョージーには、どれもない。週末、仲間と繰り出したバーで、職場の若い男性にダンスに誘われたジョージーが、踊りながら「あなたは優しい?」と訊く場面には、過酷な環境で精神的支えを求めるシングルマザーの孤独が垣間見えて胸を突かれる。

それでも自分で稼いで子どもを養っている今、「生きてる」と実感する‥‥と、職場の仲間に吐露するジョージーの、煤塗れだが自信に満ちた顔は美しい。

やっとローンで古い小さな家を買い、子どもたちと3人での生活を始めた頃、ボビーから職場の人目につきにくい場所に誘い出されたジョージーは、「仲直り」を迫られ、身の危険を感じて逃げる。彼との間に昔何があったのかは謎だ。

さらに休日、息子のホッケーの試合観戦に行ったジョージーは、自分がこの小さな町で「アバズレ」呼ばわりされていることを知る。懸命に働き子どもを育てているのに、人目を引く美人で10代で出産しバツイチという立場によって、悪い噂を流され侮辱を受けるという理不尽。

ここにはボビーの逆恨みも噛んでいるのだが、職場でのセクハラも、そんな偏狭で排他的な村社会が温床になっているのだろうと思わせる。

男性から女性へのセクハラが描かれるだけではない。週末のバーの場面では、グローリーの夫の友人として、ビルという男性が登場する。後にジョージーの弁護を引き受けることになる彼は、離婚したてで女性にはシャイな人物だが、ジョージーの若い同僚シェリーは、ダンスの誘いに乗らない彼に苛立ち「ホモ」という捨て台詞を吐いている。

自分の理解の外にある人間を許容せず、差別的なレッテルを貼る行為。現在でもそこかしこで見られる場面だ。

ある日、女性の同僚への暴力的な嫌がらせに激怒したジョージーは、単独で本社に出かけ社長に直訴。しかし話がわかるだろうと思っていた社長から「厭なら辞めていい」と言われ、絶望する。

こうして、ジョージーを巡る状況は悪化の一途を辿っていく。母親が周囲にどう見られているかを知って傷つき、心を閉ざす長男。筋萎縮性則索硬化症という難病に冒され、職場からの撤退を余儀なくされるグローリー。度重なる嫌がらせに、ジョージーのせいだと反発し始める女性の同僚たち。ボビーの執拗なセクハラ。

ついに会社を告訴して闘うことを決意したジョージーは、「法廷は鉱山より酷い。君が傷つくだけだ」と言うビルに「これは女性みんなの問題」と返し、弁護を決意させる。

初のセクハラの集団訴訟に持ち込むべく、同僚を説得して回るものの彼女らの反応は芳しくない。「見て見ぬふり」が染みついているのだ。組合の総会で勇気を振り絞り「皆と同じように働きたいだけ」と訴える彼女の言葉は、セクハラ・ヤジにかき消されてしまう。

だがここで、やっと娘の置かれた立場を目の当たりにしたジョージーの父親が壇上に上る。同僚たちに対する怒りのこもった彼の訴えをそれぞれがどういう思いで受け止めたか、ここは一番の見どころだ。

終盤の裁判後半では、ジョージーがずっと隠し通してきたある過去の事件が明かされる。動揺する傍聴席に呼びかけるビルの「スタンドアップ!」の声、それに一人また一人と応える人々。

「見て見ぬふり」が繰り返されてきたこの街、職場の状況に、ジョージーは自らの身を切って風穴を開けた。彼女の勝利は今でも、さまざまな場所でセクハラと闘う人々の希望である。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野左紀子

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