Forbes JAPAN 編集部 編集長


当初、キャッチフレーズを「World we want(私たちが目指す世界)」と決めた。しかし、国連広報センター所長の根本かおるはこう言う。

「世界中で協議を行い、オンライン調査では1000万人以上の方々が参加してくださいました。すべての人々を包摂するのがSDGsの目標です。キャッチフレーズでフォーカスするところを世界から個人に変えて、『誰も置き去りにしない(no one will be left behind)』にしたのです」

言うまでもなく、「置き去りにされた人々」が過激化したり、逆に権力が弾圧したりと、格差の二極化が危険な状態をつくりだしている。

MDGsは「極度の貧困と飢餓の撲滅」や「普遍的初等教育の達成」など、8つの目標を立てていたが、8つを横でつなげていくという発想がなかった。しかし、気候変動と格差は連動して起きる現象であるように、すべてはつながっている。

SDGsは「一つ一つを処方するのではなく、統合的に考えるプラットフォーム」と位置づけ、開発途上国だけではなく、先進国こそ取り組まなければならない課題だとした。

まずはSDGsを認知してもらい、次に理解、そして個人や会社で何ができるかを考えてもらう。そういうステップを踏むとき、日本で広報の協力関係を結んだのが、吉本興業だった。

2017年1月、東京・新宿「ルミネtheよしもと」。メディアを集めて行われたSDGsキックオフ講演会で、男性の新聞記者が国連広報センターにこんな質問を投げた。

「誰も置き去りにしないというのなら、吉本興業には6000人も芸人がいて、売れている芸人は一握りです。これは、SDGs的にどうなんですか?」
お笑い芸人を使って広めるだけでは表面的だぞと、記者は言いたかったのだろう。

企業も個人もどう取り組むか。吉本興業の会議室では広報戦略についてブレストが行われた。面白さだけでなく、続けてもらうことに意味がある。ブレストで出たポイントは、

・「環境を守った節度ある開発の大切さ」や「先進国・途上国の区別なく、それぞれがゴールにつながっていること」をどう学ぶか?

・世代に引き継ぐために、一人一人がアクションを起こしていくには?

・芸人がわかりやすく、敷居を下げて伝えていくには?

といったことが、「吉本興業のSDGsへの取り組みの第一歩になる」と考えられた。それから約1年後の2018年2月、ジェフリー・ブレズが言う。

「日本で留めておくのはもったいないと思い、ニューヨーク発で発信したら、エンゲージメント率がとても高く、ポジティブなコメントをたくさんいただきました」


「沖縄国際映画祭」の地元CMコンテストの審査員を務めた国連のジェフリー・ブレズ(右端)

彼がニューヨーク発で発信したのは、吉本芸人たちによる「#FunnySDGValentine」というPR動画。これは昨年10月、吉本興業がつくった「SDGsについて考えはじめた人々」という動画集に英語字幕をつけたものだ。

例えば、喫茶店で別れ話をしている男女がいる。

「私は何の目標もなく、なんとなく生きてきたんやけど、昨日、17個も目標みつかった」

貴弘「17個?」

「だからもうあんたと会う暇ないし、別れよ」

貴弘「17個?」

ナレーション「世界を変える17の目標、SDGs」(SDGsのロゴが画面に入る)

日本のお笑いは「ボケ」「ツッコミ」を、独特の「間」で表現するもので、異文化の人々には理解しにくいと言われてきた。しかし、ジェフリー・ブレズが言うように、SNSで「#FunnySDGValentine」は共感を得たのだ。

さらに2カ月後の4月21日、ジェフリー・ブレズは根本かおるとともに沖縄国際映画祭を訪ねると、そこで表情を変えた。「波の上うみそら公園」のイベント会場で、親子連れが芸人の似顔絵とロゴが入ったSDGsのスタンプラリーを楽しんでいたのだ。


写真提供 UNIC

「これだ、と思い、嬉しくなりました。親子でSDGsを話し合い、17個のスタンプを集めて、福引きをします。スポンサー企業がプレゼントを提供するので、お母さんたちも本気になってSDGsのクイズなどを楽しみますし、企業にとっても効果的です」

スタンプラリーは吉本興業の社員が考えたアイデアだ。

昨年から吉本興業は大きなイベントで、クイズ形式や大喜利のスタイルを借りて、SDGsのスタンプラリーを行なっている。ジェフリーが言うように、親子で楽しめるし、スポンサー企業にとっては単にお金で支援するより、楽しみながら自社提供のプレゼントを手にしてもらえる。誰もが参加して理解の入り口となる、効率的なPRだ。

ジェフリーが言う。

「SDGsを広めるには3つのステップを考えています。まず17の目標が書かれたロゴを見てもらう。認知です。次のステップは、飢餓をゼロにといった目標を理解してもらう。そして最後に、自分たちには何ができるか、あるいは会社として何ができるかを考えてもらう。行動です。このステップでどんどん広めていきたい。スタンプラリーは、楽しみながら価値をつなげていける素晴らしいアイデアだと思います」

スタンプラリーの台紙1枚と、17個のスタンプ。たったこれだけで、SDGsについて考えてもらえる。この素朴さこそ、SDGs的ではないだろうか。

文=藤吉雅春

PICK UP

あなたにおすすめ

合わせて読みたい