ビジネス

2018.05.04

保育園料からタクシー費用まで なぜ会社がそこまで補助するのか?

takayuki / Shutterstock.com


あらゆる制度にはメッセージが含まれている。「MOM」については、ママ達に対して「早く戻ってきて欲しい」「お金のことは気にせずに保活を頑張って」というメッセージであり、いかに会社が自分たちを大事に思ってくれているかが伝わるだろう。これは対象となる社員だけではなく、これから出産を控える全ての女性社員に対して、この会社で長く働ける安心感を与えることができるし、採用活動においても良いPRとなる。

なお、このアナウンスメント効果は、発表された施策が人々の期待を上回った時にプラスに作用するが、期待を下回るとむしろマイナスになる。したがって、どうせやるなら「MOM」のように思い切った施策を打ち出したほうが、その効果は発揮しやすい。

さて、ここまでの説明を読んで読者の会社でも「MOM」を導入しようと思われただろうか?

しかし、実際は企業によって費用対効果は異なる。筆者がお勧めしたいのは、以下の条件を満たす組織だ。

・社員一人当たりの付加価値が高い
・社員の採用コストが高い
・社員が戦力化するまで時間がかかる

逆にいうと、採用が簡単で、すぐに戦力化できる仕事をしている社員に対しては、ここまでの支援をする合理性はなくなる。対象者を正社員に限定するなど、職種や雇用形態などで区分することも有効だ。社員の観点からすれば、アルバイトなど非正規社員も対象にして欲しいとか、男性社員も対象にして欲しいなど様々な意見があるが、そこは感情論ではなく経営観点で合理性があるかどうかを判断すればよい。

人事制度は「人」に関することなので、ついつい人に対する自身の思いや価値観で考えてしまいがちで、関係者の感情にも左右されやすい。育児支援について言えば、施策立案者の年代、性別、既婚か独身か、子持ちか子なしか、共働きかそうでないか、という要素が大きく影響する。しかしそれは一旦横に置いておいて、会社のミッション実現につながるか、事業成長につながるか、経営合理性があるか、を冷静に判断することが大事だ。

国レベルでの育児支援や保育園施策も、労働力人口の増加にともなうGDPの増加という、割と理解しやすい合理性があると思うのだが、どうも関係者自身の観点や価値観の違いから感情レベルの議論になって、どうにも進まないのは残念だ。本当は保育園の受け皿が十分であれば、企業がここまでやる必要はないのに……と思うのが筆者の本音である。

連載:生産性が高まる&楽しくなるワークスタイル設計
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文=角川素久

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