ビジネス

2018.05.04

保育園料からタクシー費用まで なぜ会社がそこまで補助するのか?

takayuki / Shutterstock.com

4月は新入社員が入ってきたりと人事周りでは何かとイベントが多い季節だが、この時期にまた人事として特別にケアが必要なのが、育児休業からの復帰者だ。やはり保育園の入園は4月枠が多いので、どうしても復帰の時期が重なる。

Sansanでは産休・育休から復帰する社員に対する支援を手厚く行っている。それが、人事制度「MOM(マム)」だ。MOMには次の4つの支援が設けられている。

1. 保育園料全額補助

認可/認可外にかかわらず、子どもが満3歳を迎える月までの保育園料を全額補助(月15万円まで)。

2. タクシー費用の補助

保育園が通勤ルートから外れた場所にある場合、自宅〜保育園〜最寄り駅間の移動にかかるタクシー費用を月額4万円まで補助。

3. 入園予約金の補助

認可外保育園への入園申し込みにかかる予約金を総額10万円まで補助。

4. 保活コンシェルジュの利用補助

子どもの預け先が決定するまでの期間、外部サービスの保活コンシェルジュ(保活代行サービス)を会社負担で利用可能。

これを見て、ここまでやるのか!と驚かれたかもしれない。

「福利厚生が充実してる」とか「女性活用に積極的だ」と思う人もいるだろうが、実際はそのどちらも当てはまらない。社員満足を上げるために作った制度ではないし、社会的な使命感で“女性活用”を推進しているというわけでもない。目的はもっと単純なものである。

貴重な人材を失いたくないからであり、できるだけ早く職場に復帰して戦力になって欲しいからである。

読者もご存知のとおり、昨今の保育園事情は大変厳しい。子供を保育園に入れられないために育児休業を延長したり、退職を余儀なくされることも少なくない。運良くどこかの保育園に入れたとしても、認可外の高額な園であったり自宅から遠く離れた場所にあったりして、復帰後も経済的にも肉体的にも大きな負担となる。

こんなことなら育児休業給付金を受け取りながら、できるだけ長く休業を続けた方が得だと思うのも無理はない。しかし会社としては早く復帰して戦力になって欲しい。そのためには何らかのインセンティブが必要。ということで生まれたのが、この人事制度「MOM(マム)」だ。

会社としての切実な願いがあり、この制度を運営するコストと、彼女たちの不在を穴埋めするコストを比較して経営合理性があるということだ。

人を一人採用するコストを考えてみて欲しい。例えば人材紹介会社に頼むと、手数料は年収の30%が相場なので、年収500万円の社員の場合は150万円のコストがかかる。これは外部コストだけだ。仮に内定率が5%とすると、一人を採用するのに20人分の書類選考や面接の時間を割くことになる。晴れて入社しても前任者と同じパフォーマンスが出せるようになるまで数ヶ月はかかるだろう。

一方「MOM」のコストはどうか。一番高いのが「保育園料全額補助」だが、全額補助といっても一般的には多くの社員が認可保育園に入るため、0歳児の保育料は月5万円前後になるケースが多い。もちろんそれ以外の補助も含めて、人によっては相当な額になり、上述した採用コストを上回ることもあろう。しかし、この制度の対象者は全社員の1〜3%であるため、相対的なコストは大きくない。

その割に見逃せないのが、こうした制度を整備し内外に発信することによるアナウンスメント効果だ。
次ページ > 全ての女性に安心感を与えるメッセージ

文=角川素久

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事