「グループSNS」が最強のガイド 中国人の日本観光術

日本国内で増える「アリペイ」と「ウィチャットペイ」が使える店


グループSNSできめ細かい情報をゲット

もうひとつは、まだ一般の日本人には馴染みのない新たなSNSの活用法である。少々大げさにいうと、われわれにとっては、これは未知の領域といえるかもしれない。

もはや主流は、団体旅行から個人旅行へとスタイルを変えた中国人の観光客。彼らはいかにして日本での旅行を楽しむための情報を入手しているのか。それは、「グループSNS」と呼ばれるものだ。

いくつかのケースはあるのだが、いちばんわかりやすいのは、あるひとつの旅行会社で予約して同じ日に日本に出発する不特定多数の個人客をグルーピングしたものだ。

このグループチャットに参加しているのは、たまたま同じ日に中国各地から日本各地へ向かう、見ず知らずの個人客同士。目的地も宿泊先も行動も、さらには日本旅行の経験も理解もまったく異なる人たちだ。ところが、彼らはグループチャット上で自分の遭遇した出来事や体験を語り合い、異国の地で誰かに困ったことがあれば、惜しみなく情報提供し、助け合うのである。

これはSNSという「公共」の場だからでもあるが、同じ時間を日本で過ごすことになった奇遇を共有する人々の間に特別な関係が生まれているからだと思われる。自らの経験や知識を自慢したい素直な気持ちもあるだろうが、実際に日本に滞在している者同士であれば、それも伝わりやすいだろうし、感謝されることも多いはず。情報提供のしがいもあるのだ。

チャット上に飛び交う質問はあらゆる範囲に及ぶ。たとえば「関空にどうやって行くのが安い?」「どのコンビニなら『アリペイ』が使える?」「Suicaはどこで買える?」など。なかには「Suicaで余ったお金はどうすれば戻せる?」といったきめ細かいものまである。



成田空港のJRトラベルサービスセンターの光景。もっと簡便にJRパスを引き換える方法はないのだろうか。

関係者に頼んで、ある出発日のグループSNSに入れてもらったことがあるが、日々交わされる内容をみていると、いま彼らの周辺で何が起き、何に困っているのか。何をどこで買いたいのかといったことが具体的に手にとるようにわかる。

商機を求めて、日本国内の小売店が、これら中国からの観光客のグループSNSに、特典情報を広告として流し込むサービスもすでに始まっている。個人観光客というつかみどころのない相手には、これまでのように紙のパンフレットやウェブサイトをつくって多言語化するだけのプロモーション手法では通用しなくなっているからだ。

かつて盛んに推奨された中国版ブログの「ウェイボー(微博)」を開設し、「ウィチャット」のSNSアカウントを取得しても、ただ一方的に情報を受信・発信するだけでは、利用価値があまりなくなっている時代なのだ。

海外旅行する中国の人たちのグループSNS、そのリアルタイムで濃密な情報のやりとりには驚くばかりだが、困ったことに、今年に入って日本で摘発の相次ぐ中国人観光客向けの白タク行為も、これらの延長線上にある。単に電子マネーの移動ですむ決済は問題なくても、人を介した配車アプリサービスとなれば、現行の日本社会のルールに抵触してしまう。

なんともやっかいな話だが、われわれはこのような現実に付き合っていかなければならないのだ。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文・写真=中村正人

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