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山本は、各地で失敗する地方創生の問題点を「駅前の駐輪場に停められた自転車のサドル」に例える。自分の自転車を見つけて乗ろうと思ったら、サドルがない。そこで隣の人のサドルを盗んでしまうと、盗まれた人はさらに隣のサドルを盗み、どんどんサドルがなくなっていく──。

「人口が減っているのに、移住者、雇用を増やす施策を自治体が横並びでしても、パイを奪い合っているだけで何の解決策にもなっていない。奪い合うのではなく、送り込んでいくという視点が必要だと思いました。『地元を活性化したいと思っている人を谷上に集めて、育て、谷上から各地に送り込めるようなプロジェクトをやろう』と言ったら、色んな人が目の色を変えて賛同してくれたんです」(山本)

夢のある話だが、チャットワークという会社にとって、どんなメリットがあるのだろうか。山本自身も、そのメリットがクリアに見えてきたのは最近だという。「フェイスブック、グーグル、マイクロソフト、スラックに同じ戦い方をしてもダメなんです。地方創生という国が抱える社会課題を解決して日本を変える。そういう発想のプロジェクトをしたら、人も行政もチャットワークのファンになってくれる。森脇らは、チャットワークのファンを通り越してエバンジェリストになってくれるんです」。

エバンジェリストはいずれ地方に散らばり、各地で行政、学校、企業とコラボレーションしながら各々のプロジェクトを始める。そのときに使うのは、やはりチャットワークだろう。これまでビジネスチャットと縁がなかった層にまでファン網がどんどん広がる算段だ。「グローバル企業にはできないマーケティング戦略になるだろう」と山本は話す。

17年7月に帰国し、12月にプロジェクト開始を決定するまで、社内の理解を得るのに苦労したという山本は、「タイタニック号の船長みたいなものです」と笑う。「一番先を見渡して、『このままいったら氷山に当たる、右に舵を切れ』と言ったら『社長、このまま真っ直ぐでも大丈夫じゃないですか』と言われる感じ。いや、俺は右のほうに楽園のようなものがかすかに見えるんだ、だから今は信じられなくてもいいから、とにかく右に舵を切ってくれ、と思っていました」。

確かに会社としてKPIを測るのは困難なプロジェクトだ。しかし「ギブギブギブンの精神」で突っ走った山本の構想が呼び水となり、かすかに見える楽園に向かって一緒に走る賛同者が後をたたないのは、嬉しい誤算になりそうだ。

文=成相通子 写真=フジタヒデ

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