スウェーデンの会社に退職金も手当も存在しない理由

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長時間労働で有名な日本ではあるが、スウェーデン人は日本の退職金制度についてはほとんど知らない。定年時に数千万円もの退職金がもらえたり、転職を繰り返すと一般的には退職金が目減りしたりすることを、彼らに伝えると目を丸くする。

何年も先の退職金の額や出世競争について心配する必要のないスウェーデン人は、転職を考える際にも、純粋に自分のキャリアやどこに住みたいかを考えることができる。筆者は、31歳の時に新卒で入社し10年弱勤めたホンダを辞めるとき、30年以上先の退職金のことが頭をかすめ、転職を躊躇する理由のひとつとなった。

退職金だけでなく、各種手当も会社から支給されることはない。扶養手当や家族手当、通勤手当や住宅手当などは一切存在しない。同じ職務をこなすのに、妻子持ちでマイホームが遠い社員のほうが毎月の給与が多くなるということは、スウェーデンでは受け入れられない。

そのかわりに行政から手当が出る。子供手当もあるし、通勤に関しては一定の条件を満たせば確定申告時に税金の控除申請ができる。

前述の通り、どこに住もうがどんな家族構成であろうが、そのことで社員の間で給与として差が出ないような社会の仕組みとなっている。

社会と会社と個人の距離感が異なる

日本では一般的な交通費や社宅、退職金などは、「終身雇用・年功序列」を担保にして得られる巨額な手当だとも言える。実は、日本では知らず知らずのうちに個人である従業員と会社との間で「ギブ・アンド・テイク」が成立しているのだ。

スウェーデンでは、こうした手当に相当するものは会社が支払うのではなく、社会が補っている。それゆえに税率も高いのだと、筆者は納得している。会社と個人の間に必要以上な従属関係を発生させないよう、社会が補完していく仕組みとなっている。

このように、社会と会社と個人の距離感が、日本とスウェーデンとでは大きく異なる。「スウェーデンでは退職金もないし通勤手当すらない」と表層的に捉えるのではなく、この社会風土が担保する人材流動性=職業選択の自由について焦点を当て、定年後までの生活を視野に入れた社会基盤の見直しが日本には必要だと筆者は考える。

日本国憲法第22条に職業選択の自由が謳われているが、本当にこの憲法の精神は生かされているのだろうか。マイホームを購入した直後に渋々転勤を受け入れた友人や知人を何人も見てきた筆者はこれに関しては大いに疑問を感じている。日本では、社会が担うべき役割を、企業や会社に丸投げし過ぎているのかもしれない。

連載:スウェーデン移住エンジニアのライフ&ワーク
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文=吉澤智哉

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