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ロックのべテラン勢がいまだ精力的で、光沢をもった作品を制作し続けていることは、この悲しみの世界にあってうれしい事実である。1945年生まれだから70歳手前だ。が、しかし、ブライアン・フェリーの最新作は、信じられないほど若々しく、“現在”とリンクしながらも熟練を感じる素晴らしいアルバムである。

 2014年は、久しぶりにイギリスの音楽の輝きを世界に感じさせた年だった。FKAツイッグスのような新人からベン・ワットやモリッシーのようなベテランが力作を出して、批評家からもファンからも評価された年だった。この10年、イギリスは正直な話、1980年代や90年代に比べてパッとしなかった。新しい音楽は常にアメリカか、もしくはアラブ文化圏かアフリカから聞こえてきた。ポップの世界を思い返してほしい。ビヨンセ、カニエ・ウェスト、ファレル・ウィリアムス、リアーナ、ヴァンパイア・ウィークエンド、ボブ・ディラン、ニール・ヤング……チルウェイヴ、EDM……みんなアメリカだ。しかしここ2〜3年でイギリスは盛り返している。ロックではジェイク・バグやサヴェージズ、クラブ系ではジェイムス・ブレイクやディスクロージャー、テクノ系ではエイフェックス・ツイン。そしてデーモン・アルバーンをはじめ、先述したべテランの新作が脚光を浴びた。

 こうした時代の風向きに合流するように、14年末にはグラム時代の二大巨頭、デイヴィッド・ボウイが新曲を含むベスト盤を、ブライアン・フェリーが新作をリリースした。フェリーは2年前、ブライアン・フェリー・オーケストラ名義の『ザ・ジャズ・エイジ』で、往年の自身の曲を1920年代のジャズに変換してみせた。それはデイヴィッド・ボウイが新曲「スー」でジャズを引用したことに、2年先駆けたアルバムだったといえるのかもしれない。

 とはいえフェリーの『ザ・ジャズ・エイジ』は、ジャズと呼ぶにはあまりにもドリーミーな内容だった。録音それ自体がレトロを装い、すべてを甘美なファンタジーとした。その翌年、映画『華麗なるギャツビー』への楽曲提供を経て、フェリーはジャズのカヴァー集を出しているが、それも眉間に皺をよせて聴くジャズではなく、恍惚のなかで酔いしれるジャズだった。そして、その陶酔こそフェリーがロキシー・ミュージック時代から一貫して表現してきているものだ。はかなく美しい夢物語は、しかしその音楽を聴いているあいだは実感できるのだ。『アヴァンモア』には素晴らしいゲストがいる。元ザ・スミスのジョニー・マー、ダフト・パンクの作品でさらに株を上げたナイル・ロジャース、元セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズに元ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラー、そしてミキサーとして売れっ子DJのトッド・テリエも参加している。職人肌もいればギターの名人やちんぴらもいる。ダンスのマエストロもいる。実に雑多な人選でありながら、『アヴァンモア』は、完璧にフェリーお得意の悲哀の夢物語の最新版として完成されている。

 音楽がダウンロードしては聴いて捨て、またダウンロードしては聴いて捨てる時代の消費物となった現代においては、1枚のアルバムを繰り返し聴くということは当たり前のことではない。べテランのミュージシャンは、素晴らしいアルバムがタイムレスであることをよく知っている。

 音楽が波であるなら『アヴァンモア』はとりわけ滑らかな波に違いないが、これは私たちがこの先何年も聴くことになるであろう、ずば抜けて優雅な波である。

真野幸夫

 

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