ビジネス

2018.04.25

飛騨高山さるぼぼコイン 「人情派フィンテック」成功までの90日

高山市内には、江戸時代の面影を残す古い町並みが多く残り、平日も外国人観光客で溢れている。



高山市内の店舗では、レジ横に「さるぼぼコイン」のQRコードと、中国で決済手段として定着している「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」の表示が並ぶケースが目立った。

車を買う人も現れた


ひだしんは17年12月からの本格導入に先立ち、同年5月15日から3カ月間の実証実験を行った。この時発行されたコインの総額は600万円で、ひだしん職員の決算賞与の一部もさるぼぼコインとして支給された。18年3月末に出された決算賞与も大部分がさるぼぼコインだ。

「若い職員では、23万円のうち15万円がさるぼぼコインです。まずは自分たちが使って地域内で循環させる。職員、役員とその家族の行きつけの店から、加盟店にしていきました」

導入3カ月後には、チャージの上限額を10万円から200万円へと引き上げた。上限引き上げ以前にも、上限の10万円を数回にわたってチャージして旅行代金にあてた人もいた。これを200万円に引き上げた時もすぐに反応があった。

ある金曜日の夕方、古里が外回りから戻ると本店2階のPCの周りには人だかりができていた。その輪にいた常務の山腰は、古里に気づくと声を上げた。

「古里、モニター見てみい! さっそく一人で4万ポイントつけた人が出たぞ!」

上限の200万円をチャージし、さるぼぼコインで車を購入した人が現れたのだ。

今後は観光地にもチャージ用端末を設置し、秋にはクレジットカードからのチャージにも対応する。もちろん、古里はさるぼぼコインを「スマホで手軽に使える地域通貨」で終わらせるつもりはない。

「さるぼぼコイン導入の第一段階は、BtoBの決済を可能にして、地域内を混ぜ合わせることでした。しかし、決済機能はあくまでも入り口。第二段階では、アプリ自体のコンテンツを進化させます」

地元住人にとっては、需要の高い行政からの情報や「お悔やみ情報」などを提供する、毎日使える地域情報アプリに。一方、インバウンドの観光客にとっては、ビーコン(位置情報)を利用した観光情報を提供し、決済もできる総合観光アプリとなるよう、機能を断続的に追加していく戦略だ。

「そうすれば、全く交わることのなかった、地元の人と地域外の人がさるぼぼコインを介して繋がれる。これが結果的に地域の経済を支えることになるんです」

地域通貨を使って、地域と世界を混ぜ合わせる─まちの信組が生んだ「ローカル経済の新モデル」が、ここにある。


仕掛け人は、都会のオフィスにいるエリートと思ったら大間違いだ。「LOCAL GIANTS 『地域経済圏』の救世主」を特集したForbes JAPAN 6月号は4月25日発売!

文=畠山理仁 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 「地域経済圏」の救世主」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事