パリ出店を目指す「元公邸料理人」の大きな野望

料理人、秋吉雄一朗


目指すは日本人初のミシュラン3つ星獲得

もちろん、パリに店を出すからには秋吉さんにも勝算はある。本物の日本料理を出す店が少ないというのも、秋吉さんのような腕利きの料理人にとっては追い風だ。

「本物の日本料理を出す店はあまりないので、競争は少ない。それでいてパリには本物の日本料理を食べたいという需要もある。パリには世界中から観光客はもちろん、外交官やビジネスマン、そして大富豪も多く集まります。ひとり200〜300ユーロを使うマーケットは十分に期待できる」と秋吉さんは睨んでいる。

秋吉さんがパリで出店する理由は、それだけではない。

「フランスでもワラビやタケノコは採れます。でも、それを食べる文化がない。それらを美味しく食べられるということを知ってほしいし、もしフランスの人たちがそれらを美味しいと認識してくれたら、これまで放置されてきた森や竹林がきちんと手入れされることになる。そうすると、そこに産業も生まれる。本物の日本食を通して、食の選択肢を増やすだけでなく、地域の産業の発展にも繋げられると思うのです」

そんな話を聞いてしまうと、料理の味ではないところでも、秋吉さんのファンになってしまいそうだ。そんな志を持った秋吉さんの店だが、いつごろ、パリのどこにオープンするのかも気になる。

「実は現在、資金調達中なのです。パリで開く店では、本物の茶懐石を出したい。だから、茶室もつくりたい。誰が来ても恥ずかしくない、それこそどこかの国の大統領が来店しても恥ずかしくないような店にしたいので、普通の日本料理店を開くよりはお金がかかります。自分の知人やその紹介で応援してくれる人たちからスポンサーを募り、株式で資金調達をしています」

パリで店を開くには、営業権を取得したり、家賃や工事費用、器などの備品を用意したりと、日本で開業するよりもさまざまな面でハードルが高いのは容易に想像がつく。それでも秋吉さんは、パリでお店を開くことにこだわりがある。

「日本にはすでに、僕がお店を出さなくても、美味しい店はたくさんある。だから僕はパリで、本物の日本料理を知らない人たちに新しい価値観や食べる幸せを提供したいと考えています。パリで目指すのは、日本人初のフランスでの3つ星獲得です。しかも日本料理で!」

開業資金はいまのところ、目標の半分ほど集まっているという。もちろん、新たな株主も絶賛募集中だ。「自分が出資している日本料理のレストランがパリにあるんだ」なんて、一度でいいから言ってみたいものである。
 
開業資金が集まるまで、秋吉さんは修業時代を過ごした京都を拠点に、出張料理人として活動をしている。近い将来、パリで3つ星を取るかもしれない料理人の味を、いまのうちに京都で味わっておくのもいいかもしれない。

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文=鍵和田 昇

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