スピルバーグが「レディ・プレイヤー1」の撮影に入ったのは、2016年7月。早撮りで有名な監督だけに、イギリスのバーミンガムで行われた主要部分の撮影は、同年9月に終了している。ただ、本編の半分以上を占めるVR(仮想現実)のシーンはCGによって製作されているので、これも含めたポスト・プロダクションの作業がその後も続いていたと思われる。
撮影終了後も製作が継続されるなか、スピルバーグのもとに「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の監督オファーが舞い込む。トランプ政権における政府とメディアの攻防が世情を賑わすなか、「いますぐにこの作品は映画化しなければいけない」とこれを受諾し、「レディ・プレイヤー1」の製作と並行しながら、2017年5月に「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の撮影に入った。
結局、2017年11月に「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は完成、アメリカでは同年12月22日に限定公開となった。製作が迅速なスピルバーグとはいえ、撮入から半年余りで公開までに漕ぎ着けるのは異例のことらしい。一方、「レディ・プレイヤー1」はというと、当初は2017年12月15日に全米公開の予定だったが、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の公開日と重なり、競合を避けるため翌年の3月30日に延期される。
かたや2045年の未来を舞台にしたSFアクション、かたや1971年の実際にあった出来事を題材にした社会派ドラマ。まったくジャンルの異なる作品を、同じ時期に仕上げてしまう職人技には驚くばかりだが、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の公開がなければ、アメリカでは2週続けてスティーヴン・スピルバーグ監督の新作が公開されることになったかもしれない。
日本では、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の公開が3月30日、「レディ・プレイヤー1」が4月20日となったため、新しくオープンした日比谷のTOHOシネマズでは、隣り合わせのスクリーンでスピルバーグ監督のふたつの作品が上映されるという珍事も起きている。
さて、「レディ・プレイヤー1」だが、舞台は2045年のアメリカ・オハイオ州コロンバス。世界は、経済破綻や環境破壊から暗い影に覆われていた。人々は「オアシス」というVRのなかで展開されるゲームに慰めを求め、苛酷な現実から逃避していた。
冒頭、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」とともに描かれる未来都市は、その快活な曲調とは裏腹に、トレーラーハウスが垂直に積み重ねられた「スタック」と呼ばれる住宅がスラムのように建ち並ぶ、かなりディストピア的な世界だ。
「オアシス」は、創始者のジェームズ・ハリデーが2025年に開発したもので、仮想空間でプレイヤーが自分の思ったことをそのまま体験できるというもの。バットマンとエベレストに登ったり、ピラミッドでスキーをしたり、丸々カジノとなっている惑星でギャンブルを楽しんだり……そんななかでゲームも進行していく。
ハリデーはコロンバスの出身で、「オアシス」はその後、世界一の巨大企業に発展。このあたりは「アップル」をつくったスティーブ・ジョブズのイメージとも重なる。2041年にハリデーは死去。そのときに「オアシス」のなかに「イースターエッグ(宝物)」を隠し、これを見つけた者に会社と財産を譲り渡すという遺言を残す。
コロンバスのスタックに住む18歳のウェイド(タイ・シェリダン)も、「オアシス」の攻略が目下最大の生きがいとなっており、今日も仮想空間で知り合った仲間とともに、ハリデーが隠した「イースターエッグ」を探していた。