実用的AIで未来をつくる──データロボットCEOが見据える2045年

データロボットCEO ジェレミー・アシン

「私たちが扱うのは"実用的"なAIです」

データロボットのCEOジェレミー・アシン氏は、「大抵の人はターミネーターのようなAIを期待しているだろうけどね」と笑みを浮かべた。

2012年に創業しボストンに本社を構える同社は、既に8カ国以上に営業拠点を置き、社内にはデータサイエンティスト達がスキルを競うコンペティション『Kaggle』で1位をとった社員が複数名在籍しているなど、ワールドクラスのデータサイエンティスト達が在籍している。

データロボットが掲げているのは、“AIの民主化”である。彼らが手がける機械学習自動化プラットフォーム『DataRobot』では、データサイエンティストでなくとも、数回のクリックだけで機械学習モデルを構築し、高度な予測分析を実施し、ビジネスに必要な洞察を得ることができる。

それを活用することで、企業のあらゆる部門でAIによる未来予測が可能になる世界の実現を目指しているのだ。

「創業時に想像した通りの世界が来ている」というアシンは、なぜAIの民主化を追い求めてきたのか、そして“想像通り”の現在からどのような未来を描くのか。



2011年に描いた“AI民主化”の青写真

──データサイエンティストとして経験を積んだ後に起業されていますが、きっかけは何だったのでしょうか?

当時働いていた大手保険会社での働き方に違和感があったことです。わたしは会社と自身の成長を追い求めたいと思い働いていましたが、多くの社員は職場の人間関係に労力を割いていたのです。その時の私には独立や起業という選択肢は全くなく、ただ悶々とした時期を過ごしていました。

その悶々としていた時期に、偶然『ソーシャルネットワーク』(フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグらを描いた映画)を観たんです。自分よりも若い人たちが集まり、社会にインパクトを与えている姿に衝撃を受けました。当時の私はシリコンバレーとは縁遠い世界で暮らしていて、「ベンチャーキャピタル」や「スタートアップ」といった言葉さえ知らなかった。

大きな組織で行き詰まる自分と、たった数人で世界を変えてしまった彼らとの圧倒的な差を見せつけられた気がして、相当落ち込みました。けれど同時に「このザッカーバーグという男にできたなら、私にもできないはずがない」という想いも湧き上がってきた。

──そこからどのようにビジネスアイディアを練り、「AIを民主化するためのソフトウェア事業」という案にたどり着いたのですか?

『ソーシャルネットワーク』を観たのが2011年頃、すでにビッグデータによる精緻な分析に、多くの業界が期待を寄せ、データサイエンティストに対する需要の高まりが顕著になっていました。

同時に、その後の需要の伸びに対して供給が追いつかないことも明らかでした。すべてのビジネスパーソンがデータサイエンスの技術を身につけるのが理想ですが、育成にかかるリソースを考慮するとそれを実現するのは容易ではありません。一方でデータサイエンティスト一人ひとりの生産性を向上させるのも、やはり限界があります。

そうした状況を考慮すると、広いオフィスで大量のデータサイエンティストが必死にコンピューターに向かうより、AIが代わりにデータ分析を担う世界の方が現実的に思えました。AIは膨大なデータを素早く処理し、そこからインサイトを抽出するような作業が得意だからです。

ただし、分析から得た洞察をもとに意思決定を行い、アクションを行うのは人間です。だからこそ知識の有無にかかわらず、組織内の誰もがAIという技術を活用できる状態をつくらなければいけない。それが私の考えるAIの民主化であり、『DataRobot』という機械学習自動化プラットフォームを通して実現したい世界です。
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文=向晴香 写真=林孝典

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