2. 番付入りは金になる
トランプの事業とそのブランドは常に、誇大広告に基づいてきた(「最大の」「最高な」「最も裕福な」──)。よって、フォーブス400の番付入りにはビジネス上の利点がある。トランプ自身も私とのインタビューで、「融資を受けるにあたり有利だ」と語っている。
また、私は年収2万7000ドル(約290万円)の駆け出しの記者だったころ、テキサス一のストリップモール開発業者、故ジェリー・J・ムーアから、自身の保有資産を水増ししてくれれば年収10万ドル(約1060万円)超の職を紹介すると持ち掛けられたことがある。
3. あふれる自己顕示欲
世界の富豪は総じて、2種類に分けられる。自分はフォーブスの番付でもっと高い順位に入るべきだと考える富豪と、番付には入りたくない富豪だ。トランプは前者の中でも、自身への賛美を、まるで肺が酸素を求めるよう渇望する人物だ。
1990年代、トランプと昼食を共にしたフォーブス400担当者らが残したメモには、申し添えとしてこう書かれている。「彼にとって400(番付)は聖書のようなものだ」。昼食会でトランプは、自身の順位を上げるよう本誌側に働きかけ、「他の人々も同じことをしていると確信」していたという。
また、私とのインタビューでは、個人資産額を40億ドル(約4300億円)と推定するフォーブス側と、自身の資産額は100億ドル(約1兆800億円)だと言って譲らないトランプとの間で押し問答が繰り広げられた。「正直言って、これでは私が立派に見えない。40億より100億ドルのほうが見栄えが良い」
4. 全ては駆け引き
トランプは2007年の宣誓証言で、自身の個人資産額は、その日の気分によって変わると断言している。その意味を問われると、「質問を受けたときの自分の全体的な気分だ」と説明。気分がよくなければ、「うまくいっていないとは記者には言わないだろう」と述べた。
1990年ごろにトランプの企業の経営が悪化すると、フォーブスはその内幕を追ったカバーストーリーを出し、彼の保有資産はマイナスになった可能性すらあると指摘した。トランプはこれを真っ向から否定し、証拠として怪しげな数字やデータを提示。彼は最終的にフォーブス400の番付から外され、5年間にわたり復帰することはなかった。
トランプは、ロサンゼルス・タイムズ・シンジケートに寄稿した論説で、フォーブスを猛烈に批判。本誌が自らの評判を傷つけ、部数を売るために「故意に誤った」記事を出したと主張した。
トランプは2015年になってようやく、自身が当時、事実関係を誇張していたことを認めた。だが一方で、皮肉を込めることもなく「君たち(の推定額)は実際には高かった」としてフォーブスを批判。自身は番付から「外れてしかるべきだった」とした上で、「私は一度も不服を言わなかった」と述べた。実際は不満たらたらだったことを指摘すると、肩をすくめ「まあ、どうでもいいことだ」と一蹴した。