味覚を覚醒させよ! 味を楽しむための「ケイチャップ」作り

4月中旬、スイスのある企業へ“うま味”のレクチャーに招かれた際もケチャップを作って五味を説明。




半分くらい煮詰まったら完成なのですが、そこで一度味見をして頂ければと思います。ビネガーを加えたがいいのか? それとも砂糖が足りないか? または塩を入れるべきか? 味を探ろうと感覚が敏感になり、色々と考えさせらるはずです。

きっと「砂糖がなくても十分美味しいじゃない」って感じると思いますが、でもそこで砂糖や塩を入れるとまた違って、脳が快楽を得るような感覚になると思います。

僕は、現代の食事に多い塩・砂糖・脂という脳が快楽を得る味を「アッパー系」、それに反して、身体がホッとするような苦味・酸味・うま味を「ダウナー系」と呼んでいますが、うま味成分の代表格であるグルタミン酸(トマトと玉ねぎ)を含んだケチャップは本来ダウナー系のもので、今のように「うまいうまい」と食べるものではなかったのではないかと思います。

食が狂うから、とち狂う?

ちなみに、ケチャップという言葉がトマトケチャップを指すようになったのは近代以降で、それまではトマトに限らず、魚介類やキノコ、野菜などを材料とする調味料を指していました。

語源については諸説ありますが、1690年代の英米の書籍に「ketchup」「catchup」という言葉が収録され、「a high East-India Sauce(東インド奥地のソース)」と記されていたことから、中国〜東南アジアで見られる、魚介類の塩漬けを発酵させた液体(魚醤)の呼び名に由来すると考えられています。

中国で「koechiap」と呼ばれた調味料がマレー半島に伝わり「kichap」と呼ばれるようになり、植民地時代にヨーロッパに伝わると、キノコ、トマト、クルミなどを原料として作られるようになった。

一方で、魚醤の始まりはイタリアのナポリ近郊。現地で「コラトゥーラ」と呼ばれる調味料だとされています。ナポリの周りにトマトの文化が根付いたのも、トマトを煮詰めたケチャップが魚醤と同様、うま味成分がたっぷりのものだったからではなかったのかなと想像するととても面白です。

こうして人は、その土地に根付くうま味をベースに、季節と共に出てくる旬の味覚を合わせて自然とともに生きたのですが、工業化により塩や砂糖の精製が進み、さらには保存料まで広まったことで、世界中どこでもいつでも、同じ味のケチャップが食べられるようになりました。

狂ったように騒ぎふざける様子を指す「とち狂う」という言葉がありますが、僕はこれを、帰属意識や気候風土を感じれなくなる「土地狂う」と解釈しています。例えば日本でいえば、北海道と沖縄では本来食べる(食べられる)ものが違うはずなのに、気候風土関係なく均一化されたものを食べているから、食を発端に社会の歪みが生まれてるのではないでしょうか。

週末やこれからのゴールデンウィーク、ぜひこのKチャップを作ってみてください。ゆっくり弱火で火を入れ、素材の甘さを引き出しながら煮詰めていくと、レシピの上の砂糖の役割がどんなものなのか、気づかされると思います。

食を通して健康になる。それはただ美味しく健康的なものを食べるではなく、健康になるための食生活や習慣を作る方が大切で、実は近道かもしれません。

ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
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文=松嶋啓介

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