マネー

2018.05.09

「タンス預金」が日本の未来を切り開く

学生が開発した試作品を視察するイーロン・マスク(中央)。投資が明日の起業家を育てるのだ


日本の未来に投資してほしい 

少し前、一橋大学の伊藤邦雄先生を中心に「伊藤レポート」がまとめられ、今後の日本の経営者と投資家の関係について鋭い提言があった。それは、日本の企業はこれから「持続可能な成長」についてもっと考えるべきであり、それには経営者と投資家との建設的な対話が重要で、その対話をしていくインフラづくりを「インベストメントチェーン」として注目すべきというものだ。

また、企業はROE(株主資本利益率)8%以上を目指そうという具体的な目標も記載された。

これは長期的に930兆円の現預金を投資に向かわせる流れの一つになると確信している。それと金融庁の投資信託の改革、特に「顧客本位の業務運営」や(そもそも、顧客本位の運営をするというのはあまりにも当たり前すぎるが)、「つみたてNISA」などの長期投資を促す制度が生まれてきており、これからは今まで掛け声倒れで進まなかった貯蓄から投資への流れが本格化するかもしれない。

また最近、伊藤レポートもバージョンアップした。ESG(環境・社会・ガバナンス)などの観点をより重視しながら成長への舵を切るべきと訴え、それが「価値協創ガイダンス」としてまとめられている。現在も企業側と投資家側でどのようにあるべきかを議論している最中だ。私もその委員として参加している。

私はレオス・キャピタルワークスという資産運用会社を経営している。私自身が「ひふみ」という株式投信のファンドマネジャーでもある。最近は投資信託協会の理事も務め、より業界が発展できるような活動をしている。

その中で最近、当社で新たな目標を掲げることにした。それは、「今後10年以内に、今の現預金の約10%強の100兆円を投信に振り向ける」というものだ。930兆円のうち100兆円分が投資信託に回ってもリスク資産の10%程度である。とはいえ、この10%が動くだけで100兆円もの資金が投資に回るわけだ。

それは社会全体に非常に大きなインパクトを与えるであろう。私たちはライバルの他の投信から新たな資金を獲得したいとは思ってはいない。今の現預金から投信に振り向けられることを期待し、そのように行動してきた。

100兆円もの資金が業界全体に流れ込むことにコミットすれば、その5%から10%程度は当社に流れるかもしれない。そうなれば、今後10年間で5兆円から10兆円の運用残高が増えることは十分に可能である。

日本株だけでそれが可能かどうかはわからない。10兆円もの資金を運用するには、これからは日本株だけではなく世界株やREIT(不動産投資信託)、未上場株式などへの挑戦も必要だと考えている。ひふみのブランドでこれらの商品を展開して、貯蓄から投資への流れをつくっていきたい。

日本の投信会社は成長産業であり、これらの企業のがんばりが日本の希望だ。少子化が進む日本にあって、未活用で莫大(ばくだい)な資源はこの膨大な預貯金である。

ただ、それには未来に投資をしようという前向きな気持ちを日本の人たちに持ってほしい。それこそが、業界全体の仕事ではないかと考えている。


ふじの・ひでと◎レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。東証アカデミーフェローを務める傍ら、明治大学のベンチャーファイナンス論講師として教壇に立つ。著書に『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』(東洋経済新報社刊)など。

文=藤野英人

この記事は 「Forbes JAPAN 時空を超える、自分を超える異次元のワークスタイル」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

カリスマファンドマネージャー「投資の作法」

ForbesBrandVoice

人気記事