米国産ワインを広めたパイオニア 活用したのは「感情の力」

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カリフォルニアのワイン産業は、変わり者や一匹おおかみ、リスクを恐れない人たちであふれている。私が、カリフォルニア州をワインの生産地として知らしめたパイオニアと会い、その経験から学ぶことを楽しむ理由の一つはここにある。

こうしたパイオニアの一人が最近、この世を去った。同州パソロブレスを世界に通用するワイン生産地として確立し、米国にフランス流のローヌ品種を紹介したタブラス・クリーク・ビンヤード(Tablas Creek Vineyard)の共同創業者、ロバート・ハースだ。彼は、ニューヨークでワイン酒店を営んでいた父と共に輸入業者として幾年も働いた後、カリフォルニア州に移住して自分のワイナリーを立ち上げた。

ハースは1994年、フランスの著名なワイン生産者であるペラン家とタッグを組み、カリフォルニア州で事業を開始。当時、大半の米国人はシラーやムールヴェードル、グルナッシュのような品種をブレンドした赤ワインにはなじみがなかった。ワインにカベルネ、シャルドネ、メルローなどと書かれていなければ、消費者は興味を示さなかったのだ。

ハースはワインを売るため、ニューヨークでフランスワインの輸入業をしていたときに学んだストーリーテリング手法を活用した。米紙ウォールストリート・ジャーナルの記事によると、彼は何年もワイン取引の交渉をした経験から、ワインが感情的なビジネスであると確信していた。消費者の習慣を変えるには、ストーリーを売り込む方法を学ぶ必要があったのだ。

「ただ店に入って価格を交渉し、出て行くなんてことはできない」とハース。「ワインの購入は、おもちゃを買うのとはわけが違う。その人(生産者)が丸1年間を費やしてその作物を作り上げたこと、そしてそれを誇示せずに手放そうとはしないことを分かっていなければならない」

ワインの販売は、あらゆる商品の販売に適用できる貴重な教訓を秘めている。ワインの生産者は、化学とワイン栽培を研究する真の科学者だ。ワインの生産には高度な技術が必要だが、ワインの購入は感情的な決断であることが多い。
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編集=遠藤宗生

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