米国産ワインを広めたパイオニア 活用したのは「感情の力」

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私は数年前、ニューオーリンズで開催されたマスター・ソムリエの会議に講演者として招待された。ドキュメンタリー映画『ソム:ワインにかけた情熱』を観た人なら、米国にたった150人しかいないマスター・ソムリエになることがどれほど難しいかが分かるだろう。何年もかけ集中的な勉強を積み、試験に合格することが必要だ。

私は会議の主催者に対し「自分はワインについて少し知識がありますが、ソムリエではありません。私が講演する価値などあるでしょうか」と聞いた。するとこんな答えが返ってきた。「私たちが知りたいのはワインについてではなく、ストーリーテリングについてです」

ストーリーとワインは完璧な組み合わせだ。私は、消費者がワインの裏に秘められた物語を知ると、特定のワインを買う可能性がはるかに高くなることを知った。それは、生産者やワイナリーの歴史、生産地の興味深い物語などだ。

感情には商品を動かし、業界全体をひっくり返す力があることを示す良い例が、映画『サイドウェイ』だ。私は、ビジネス分野でのストーリーテリングについて本を執筆するため、同作とその影響を調査した。

同作では、ポール・ジアマッティ演じる主人公マイルスが、会ったばかりの女の子に自分がピノ・ノワールを愛する理由を語る60秒ほどの場面がある。彼の語るストーリーは、マイルス自身の性格を象徴している。彼は次のように言った。

「これは育てるのが難しいぶどうなんだ。皮が薄く気まぐれで、熟すのが早い。どんな場所でも成長し、世話をしなくても生い茂るカベルネのような力強いタイプではないんだ。ピノは手入れと世話が欠かせない。だから、本当に忍耐強くてきちんと世話のできる生産者しか育てられない。時間をかけてピノの潜在能力を理解できる人だけが、その力を存分に発揮させることができる」

その後の展開はもうご存知かもしれない。映画の影響で、ピノ・ノワールの売り上げは一夜のうちに急増した。面白いのはここからだ。この映画は日本でリメークされたが、米国のような「ピノ効果」は生じなかった。この場面がリメーク版では削除されたからだ。一つの物語が、消費者の習慣に大きな変化をもたらしたのだ。

感情に影響される商品は、もちろんワインだけではない。多くの場合、人が商品を購入するとき基準にするのは機能ではなく、商品が自分をどういう気分にしてくれるかだ。営業チームをストーリーテラー(物語を語る人)に変えれば、より多くの商品を動かせる。

編集=遠藤宗生

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