骨退化を抑えたいなら「1日5回◯◯せよ」 未来を支える最強の骨までの道筋

(左)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 講師 篠原正浩、(右)ヒューマノーム研究所創立者 井上浄




井上
:イメージだと、長距離マラソンの人は骨が強そう。

篠原:それが、長距離の選手の骨量は一般の人と変わらなかったんです。差が見られたのは、短距離走や走り幅跳び、砲丸投げなど。まだ研究中なのでなんとも言えませんが、私は瞬発的に大きな力が骨にかかる状況が、骨量を増やすことにつながるのではないかと仮説を立てています。

井上:骨と運動には何かしらの関係がありそうですが、そのメカニズムは実はほとんどが未解明らしいですからね。これからの検証が楽しみですね!

折れてしまった骨は治しにくい、だから予防が大切

井上:人生100年時代を考えたときに、健康寿命と骨の関係ってとてつもなく大きな相関がありますよね。

篠原:寿命と健康寿命との間、つまり介護・介助が必要な期間は、男性で平均8年、女性で平均12年と言われています。介護が必要になる原因として多いのは、脳卒中などの脳の疾患、認知症や高齢による衰弱。それに次ぐ原因となっているのが骨折や関節系の疾患なんです。

井上:骨折に効く薬ってあるんですか?

篠原:骨を壊す破骨細胞を抑える薬はあるけれども、折れてしまった骨を早く治す薬はありません。だから、予防が非常に重要なんです。

井上:だいたいの人が、骨折してから骨がスカスカになっていたことに気付くって言いますもんね。

篠原:骨量や骨密度を気軽に計測できる手段がないことが問題だと思うんですよ。現状でそれをやろうとすると、病院でCTを撮るか、100万円くらいの超音波計測器が必要。もっと簡便に骨を知るためのツールを開発したいです。

井上:今の状態を知ることができれば、未来の予測も立てやすくなる。

篠原:そうです。運動と骨、それから食事と骨といった相関関係がもっと明確になって、破骨細胞と骨芽細胞も数値化できれば「このペースでいくと、XX歳くらいで骨量が危険範囲になりますよ。これ食べて、この運動してください」という適切なアドバイスができるようになる。自分の意思で自由に身体を動かせることが、心身ともに健康な状態だと思うんですね。


「ヒューマノーム研究所」創立者 井上浄

井上:初めて篠原先生にお会いしたとき、「測定できればプロットができる、時間軸を加えれば変化がわかる、データが増えれば予測ができる、予測ができれば予防ができる」と仰っていたことを思い出しました。つまり点が線になってグラフになる(方程式が書ける)から予測できるようになると。

篠原:そんなこと言ったかもしれませんね(笑)。

井上:健康な状態で人生100年を達成するために、篠原先生がやろうとしていることは何ですか?

篠原:研究はもちろんですが、それを社会に還元していきたいと考えているんです。まずは骨に対する意識を高めることと、気軽に自分の骨を知るためのツールを開発すること。今は、社会実装も視野に入れています。

井上:人々の骨が健康なれば、介護の悩みも減らせるかもしれませんね。

篠原:2050年には、生産年齢の一人につき一人の高齢者を支えなければいけない時代がやってきます。今のままでは、介護の問題は増えるばかりです。

井上:骨が丈夫でムキムキなおじいちゃんがいれば、むしろ高齢者3人分くらい介護をしてくれそう(笑)。

では最後に、篠原先生にとって骨とは何ですか?

篠原:僕のすべてを支えてくれているものです。

井上:身体的にも経済的にも。言葉の意味、しゃぶるほどうまい!


篠原正浩◎東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 講師。東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 博士課程修了(農学博士)。東京大学分子細胞生物学研究所博士研究員などを経て現職。専門は生化学、細胞生物学、骨代謝学など。

井上浄◎株式会社リバネス取締役副社長CTO 博士(薬学)/薬剤師。2002年、大学院在学中にリバネスを設立。博士課程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、2015年より慶應義塾大学特任准教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所の設立、ベンチャー企業の立ち上げ等に携わる。2016年、ポストヘルス時代における人のあり方を思索する『ヒューマノーム研究所』を設立。

構成=ニシブマリエ 写真=藤井さおり

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