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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」


最も高度な「考える力」とは、そうした論理思考を超え、突如、新たな考えが閃く直観力のことであり、それが「深く考える力」の本質である。

もう一つは、「膨大な記憶力」。

我々の心の奥深くには、実は、人生で触れたすべての情報が記憶されている。しかし、我々の通常の思考では、それらの情報のごくわずかしか取り出すことができない。だが、「賢明なもう一人の自分」は、それらの情報の中から、必要なものを、瞬時に取り出すことができる。

実際、表面意識でのブレーンストーミングでは、どれほど考えても思い浮かばなかった記憶が、「賢明なもう一人の自分」が動きだすと、心の深層から浮かび上がってくることは、しばしばある。

では、なぜ、そうした能力が、我々の日常の思考において発揮されないのか。

その理由は、自分の中に、そうした力があると信じていないからである。

いや、むしろ、我々の多くは、「自分は直観力が無い」「自分は記憶力が悪い」という無意識の自己限定をしてしまっており、それが、我々の力の発揮を妨げ、ときに、無残なほど委縮させている。

例えば、チョークで地面に30センチ幅の2本の線を引き、この線の内側を歩こうと思えば、健常者ならば、誰でもその線を踏み外すことなく歩ける。

しかし、もしそれが、断崖絶壁の上に架けた30センチ幅の丸太橋であったならば、我々は「落ちたら死ぬ」「こんな橋、歩けない」と思ってしまい、その瞬間、足がすくんで一歩も踏み出せなくなる。

このように、我々は、無意識の自己限定が心を支配した瞬間に、本来持っている能力を、無残なほど発揮できなくなる。そして、それは、肉体的能力だけでなく、精神的能力も同様である。

しかし、もし我々が、この無意識の自己限定を取り払うことができるならば、その瞬間に、我々の中から「賢明なもう一人の自分」が現れ、直観力や記憶力など、素晴らしい叡智を発揮してくれる。そして、「深く考える力」を発揮してくれる。

では、どうすれば、その「賢明なもう一人の自分」が心の奥深くから現れてくるのか。そして、その叡智を発揮し始めるのか。

そのことを、新著『深く考える力』(PHP新書)において、本誌の連載エッセイ38編と併せ、「5つの技法」として述べた。

文=田坂広志

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