日本でもすでにこうした事象は発生しているようだ。筆者が創業したさくら事務所にも、宅建事業者から報告書改ざんの依頼があり、当然のことながらお断りしているが、次から弊社にインスペクション依頼は来ない。ということはつまりどこかで、その依頼に応じているインスペクターがいるはずだ。
次に問題となるのは、重要事項説明時に、宅建士がインスペクションの有無とその内容を説明しなければならないことだ。
宅建士には一般にインスペクションの素養はないことは周知だが、はたしてどのように説明するのか。また説明時には、報告書を提示する義務はなく「雨漏りがあった・なかった・わからない」といった項目がいくつか重要事項説明に提示されるだけ。これは非常に中途半端で、例えば雨漏りがあった場合、その原因は何か、直し方にはどのようなものがあるか、それによってどの程度長持ちするかといったところまで説明できなければ買主は納得・安心しないだろう。
また「雨漏りがあるかどうかわかりません」と言われたところで、不透明さがつきまとうだけ。さらには重要事項説明を行う宅建士も、決して契約を壊すことなく締結したいといったモチベーションがあるから、一部では事実と異なる、営業的なオーバートークが行われるだろう。こうなると、一体何のためにインスペクションの説明をしているのかわからなくなってしまう。
他先進国では、インスペクション結果について宅建士が説明を行うことはない。それは宅建士の専門分野ではなくインスペクターの責任範囲であるためだ。したがって説明責任のリスクもない。
さらに国交省は、インスペクションを行う「既存住宅状況調査技術者」について、年度末には2万4600人になる見込みだとしているが、実務経験に乏しく、半日程度の講習を受けた技術者が、はたしてどの程度のインスペクションを行えるのか。アメリカでは、インスペクターの教育研修を行う企業が多数存在する。
筆者が2016年に訪問した教育機関では一般的にはトータル120時間のうち、机上の知識習得に40時間、現場における実地研修には80時間かけ、考査の上晴れてインスペクターとなる。その後はアメリカインスペクターズ協会(ASHI)などの団体に加盟し、定期的に講習や考査を受けスキルアップに努めている。
ホームインスペクション(住宅診断)はあくまで買い手が、その実績などを勘案しつつ、不動産業者との癒着が起こらないよう自分で選んだインスペクターに依頼するのがよい。
連載 : 日本の不動産最前線
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