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日本の不動産最前線

Billion Photos / Shutterstock.com

ホームインスペクション(住宅診断)を説明義務化する「改正宅建業法」が、4月に施行された。具体的には、不動産取引の媒介契約を結ぶ際、あるいは重要事項説明の際などにおいて「インスペクションの斡旋の有無」や「インスペクションをしていればその内容について説明する」というものだ。

要するに、住宅売買に関わる売主・買主は全て、インスペクションの存在を知ることになるわけで、今本改正によるアナウンス効果は絶大だ。

とはいえ、これでインスペクションが本格普及し、中古住宅流通が活発化するかといえば、ことはそう簡単ではない。それどころか、トラブルを生む危険性をもはらんでいる。なぜなら、今回の業法改正にはいくつもの制度的な不備がみられ「市場の失敗」が起こる可能性が高いと思われるためだ。したがってインスペクションの普及は、黎明期を過ぎて「混沌期」に入ったと見ておくのが良いだろう。


では、制度的な不備とは、例えばどういうことか。

例えば「媒介契約時に、宅建業者がインスペクション業者の斡旋の可否を示し、媒介依頼者の意向に応じて斡旋を行う」という点。これは明らかに、売主側がインスペクションを行うことが企図されているのは、不動産売買実務者なら自明だろう。なぜなら、売主とは物件売り出し前に媒介契約を締結するが、買主とは実務上、契約当日に行う。

契約の場になってインスペクションの斡旋の有無を提示されたところで、目の前には売主がいるわけで、時すでに遅しだ。したがってこの制度改正では、売主の側でインスペクションを行うしかないが、ここには問題が潜む。他のインスペクション先進国では例外なく「売主が行うインスペクションは信用ならない」として、買主側がインスペクションを行う制度設計に改められた。

なぜ売主側のインスペクションが信用ならないか。そこには、この業界にありがちな「癒着の構図」があるからだ。宅建業者がインスペクターを紹介する場合「仕事をあげる側」と「仕事をいただく側」といった構図になる。つまりインスペクターは、宅建業者の下請けになるわけだ。

このとき宅建業者は、売主と媒介・売買契約を締結したいといったモチベーションを持っている。いきおい、報告書の不利な文言は削除せよとか、一部画像を差し替えよといった注文がつく。これでは「事実と可能性をありのままに提示する」といったインスペクションの本来的な意義が失われてしまう。

こうした事態がアメリカ・カナダ・オーストラリアなどのインスペクション先進国で例外なく起こった。不動産業者の癒着し、「仕事出すから報告書便宜はかれよ」というわけだ。その後アメリカでは州ごとに「業者によるインスペクター紹介禁止」などで対応。現在はほとんどが買主によるインスペクションだ。契約後5-7日程度のうちにインスペクションを入れ、その結果によって契約条件を再交渉でき、場合によっては白紙解約もできる。

オーストラリアでは、「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションするしくみが創設された。アメリカ同様契約後にインスペクションを行い、当日夕方5時までに契約解除や不具合箇所指摘。何もなければそのまま契約条件了承とみなす。インスペクション先進国は「宅建業者とインスペクターの癒着」と闘ってきたのだ。

文=長嶋修

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