AIとドローンで森林破壊を止める 博士卒の女性起業家

城口洋平 エネチェンジ代表取締役会長・SMAP ENERGY CEOとスーザン・グラハム バイオカーボン・エンジニアリング共同創業者兼CTO


城口:森林破壊はあらゆる地域で起きています。多くの企業がCSRの観点から多額の資金を投じています。マーケットは既にあって、プロダクトの準備さえできれば、バイオカーボンは急速な成長が可能ですね?

グラハム:そうです。世界資源研究所の2017年の年次報告書でもバイオカーボンのことが取り上げられました。彼らは森林、木材、紙やパルプといった個別の課題に絞らず、生態系を回復させる経済エコシステムに焦点を当てていますが、それはまさに我々がやろうとしていることです。

そしてこれは世界の課題です。国土の71%の面積が森林に覆われている日本でも、毎年35000ヘクタールが失われています。まず我々の目標は、世界で一年間に失われる木と同じ数を一年間で植えることです。既に生態系の回復や植林のためには多額の資金が投じられていますが、利用されている技術はスケーラブルではなく、投資金額と課題に見合っていません。そのギャップを技術で埋め、生態系の回復を可能にする経済エコシステムの構築こそが我々の目標であり、既にいくつかの国で商業利用を目的にデモンストレーションを行っています。

城口:オックスフォード大学博士課程に在籍しながら、創業チームに参画されています。大学は、起業をサポートしてくれましたか? ケンブリッジ、オックスフォードに博士号取得を目的に来ている人たちは、起業のようなビジネスマインドを持っている人たちは少数だと思います。特に日本の大学では、研究者は研究者、起業家は別のタイプの人がやること、そして別世界のことだと思っている人も多いです。

グラハム:興味深いですね。私が大学在籍中に関わった小さなベンチャーの1つに「The Renegade(反逆者) Times」というオンライン・マガジンかつ起業家コミュニティがあります。整然としたプロセスで研究を行うことが求められる博士課程にいながら起業するのはややアングラ的で、反逆児めいているからです。このコミュニティは起業家たちが集い、彼らの経験や資金調達、ピッチやアイデアと将来について語り合う場でした。

多くの研究者にとって、起業というのは異端の道であり、リスクが大きいように見えている。ただ、リスクは何なのか、失敗した時に何を失うのかと考えた時に、実際は失敗によるリスクはそんなにないことを気づいていない人が多いのではないでしょうか。今は、オックスフォードに新しくアントレプレナーシップ・センターができたと思います。

城口:起業を支援する動きもあるんですね。イギリス、ロンドンで起業するということについてはどう考えていますか? 今も米国シリコンバレーが起業のホットスポットです。バイオカーボン社のようにグローバルな技術を持つ企業にとって、イギリス、ロンドンを拠点にする意味とは?

グラハム:イギリスに拠点を置く大きな利点の一つは、政府やEUの補助金へのアクセスが良いことです。我々も補助金を得ています。米国ではプライベートキャピタル、グロースキャピタルへのアクセスが良く、それらは企業を拡大し成長させてくれます。その双方のコンビネーションが必要だと考えています。しかし、ヨーロッパでは豊富な人材へのアクセスが可能です。シリコンバレーでは人材獲得の面でグーグルやフェイスブックといった大企業の他、多くのスタートアップと競合しなければならない。特にイギリスでは市場がそこまで成熟していないため、スタートアップに素晴らしい人材を獲得することができます。

城口:私が、DeepMind社創業者兼CEOのデミス・ハサビス氏と話をした際に、彼も同じことを言っていました。「会社を創った時、ピーター・ティール氏が投資してくれたのだが、そこで一番時間を使って議論をしたことは、会社をシリコンバレーに移すべきか否か、ということだった。ティールは、今すぐシリコンバレーに移せ、といったんだが、僕は断ったんだ。欧州には、とても優秀な人材がいる。シリコンバレーで競い合って採るよりも、欧州の大学から人材を採用した方がいいっていうのが僕の考えだった」と。

グローバル化の時代、資金は国境がなく容易に飛び回るが、人の移動はそうはいかない。欧州にある知の集積にアクセスできることが、イギリスベースでのベンチャー経営の優位性なのかもしれませんね。ブリグジットは、どのような影響があると考えていますか?

グラハム:あらゆる企業にとって、良い才能の獲得、人材へのアクセスは成功のために重要なことです。それが制限されると、成功への道筋も制限されます。このことは考慮するべき問題だと思っています。
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構成=岩坪文子 写真=Jennifer Endom スタイリング=Marika Page

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