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2018.04.11

全米が大谷フィーバー! 「カネではない」純粋な野球愛に感動

Photo by Alex Trautwig/MLB Photos via Getty Images


しかし、20年の選手生活で複数の球団を渡り歩く選手や、それを商品のように売り買いする球団本部とは違って、ファンは一生、ひとつのチームを応援し、忠誠を誓い、浮気をすることはない。

資本主義が強烈に進化したアメリカスポーツ界において、ファンの「純愛」はときに切なすぎるほどだ。なので、25歳まで待てば大金と複数年契約を掴めるのに、そのシナリオをあえて捨ててアメリカへ渡り、「カネではなく、世界最高峰のリーグでプレーしたい」という野球愛を、身をもって示したこの純粋な「青い果実」にはファンは驚きとともに大きな敬意を払っている。純愛の復活である。そしてカネ以上に働いている大谷に対して、ますますファンサイドの純愛もまた燃え上がるという図式だ。

歴史が塗り替えられるのを目撃したい

それと、アメリカのファンを夢中にさせているのは、今後の大谷の史上空前な活躍を同時代で観戦できるチャンスへの期待だ。筆者は幼少から、世界記録の868本のホームランを打った王貞治氏のファンだが、残念ながら大リーグファンは、「違う物差し」で測られた記録を評価しない。

イチローはおそらく最も尊敬されている日本人プレーヤーだが、アメリカ人にとってのイチローは首位打者や盗塁王、大リーグシーズン最多安打記録保持者であって、世界一の安打記録保持者ではない。

つまり、日本の報道とアメリカの報道の根本的な差は、日本が日本時代の記録を常に合わせて報道するのに対し、アメリカでは大リーグという統一規格の中での数字を報道する点だ。それがフェアだという感覚で、それはプエルトリコ選手もメキシコ選手も韓国選手もみな同じ扱いを受ける。

実は、アメリカ人にとって、その選手がどこの国の人間であるかはまったくどうでもいい問題だ。そこも日本人が日本人大リーガーをことさらに応援する熱狂とはかみ合わない。人間社会だし、スポーツの現場だから、悪口のなかについ差別用語が入ることは今後もあるだろう。

しかし、筆者が大リーグの全30球場を観戦した個人的な経験に照らし合わせても、オリンピックじゃあるまいし、人種や国籍にこだわるファンはいないと断言したいほど少数だ。そもそも大リーグの選手の3割は外国人だし、出身は19か国にのぼる。

それより、「空前絶後の二刀流(two-way player)」に自らの人生で邂逅し、その記録が(統一規格)どんどん伸びて歴史が塗り替えられていくのを目撃していきたいと高揚する。選手仲間の冷静さと比べて、アメリカの大リーグファンが大谷の活躍に興奮しているのはこの同一規格での同時代性だ。

もし、日本から駆けつけて、球場で大谷を応援するなら、日の丸の旗を振りたい気持ちを抑えたほうが良い。そこにいるすべてのエンジェルスファン同様、エンジェルスの帽子を被り、大谷のTシャツを買って、奪三振やホームランのたびに隣のアメリカ人とハイタッチをして思い切り叫ぶべし。

この際、資本主義も、国威発揚も、野球に関係ないものはすべて捨てて大谷を応援すべきだ。大谷翔平がアメリカ人を揺り動かしているものは、純粋な野球愛だから。

文=長野慶太

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