ここで重要だったのは、同社の従業員が他者のために(そして結果的には会社のために)自分の時間を犠牲にすることを望んでいると、同社のリーダーシップが認識したことだ。社員からこうした奉仕や思いやり、誠意を受けても、何もお返しをしないのは、非常に利己的な経営陣のみだ。
ウォルマートは、従業員に恩返しをすることにした。従業員に対して同じように真心のこもった態度を見せれば、社員は会社のためにさらなる努力を続けることに気づいたのだ。同社は給与改善、トレーニングプログラムの作成、顧客に奉仕するために必要なさまざまな支援の提供などを実現する方法を模索し始めた。
そしてここからが、この話にまつわる真に類まれな部分だ。こうした施策を実現し、社員の待遇を変えるため、ウォルマートは株主からの圧力に抵抗しなければならなかった。同社は短期的な利益に執着する株式市場に迎合せず、長期的に見て正しいことを実行したのだ。ウォルマートは最低賃金を9ドル(約960円)から10ドル(約1070円)に上げたことで、株価下落という「罰」を受けた。だが同社はそれでも、その姿勢を変えなかった。
私は、問題の核心はここにあると思う。この教訓をうまく学んできたのはテック業界だ。同業界では、採用した優秀なプログラマーがシリコンバレーの他企業に転職しないよう、しかるべき待遇を与える。社員のトレーニングや育成、報酬、支援に力を注ぐことで、ビジネスに長期的視点から投資するのだ。
グーグルやアップル、マイクロソフト、アマゾンはこうした企業文化を率いている。こうした投資を行えば、従業員はその能力を最大限発揮する。全社員が公平に、適切な待遇を受ければ、従業員は競合企業をしのぐ成果を出すだろう。
人材を投資と考えるか、コストと認識するかは会社次第だ。人材は投資に値せず、コストとして考え搾取すべきという考え方は、株主優位主義と株式市場によって助長されてきた。しかし、成功する会社は社員を成功の源とし、生産性・創造性が最大になるように刺激することが勝利への道だと気づいている。
冒頭のウォルマートの従業員は、勤務時間を満たすことだけでなく、より広い視点を持っていた。たった1度の商品販売により、コミュニティーの幸せと人の命が危険にさらされる可能性があることを理解していたのだ。
この従業員はこの日、何人かの命を救ったのかもしれない。社員が受けるに値する待遇を与えれば、あなたの会社の社員もこのように、重要な行動を取ってくれるかもしれない。