ふたりは、子どもに対してむやみやたらに怒らない子育てのスタイルが印象的だった。2歳の娘が高めの椅子に登ろうとした時、私なら落ちて泣きでもしたら面倒なので、素早く下におろしたい気持ちになる。でもふたりは「はるちゃん、落ちたら痛いよー」と言いながら、笑っていつでも助けを出せる距離で見守っていた。
「いちいち怒らなくたって、いまできないことも10歳になったらきっと自然にできるようになる。それに、私たちは若いし子育てなんてできなそうって周りからはみられるから、無理に頑張らなくてもいいかなって」
ふたりにとっては「若い」ことが頼るときの免罪符になっている。しかし、その免罪符がなくても「弱さ」を持ち、困ったときには周囲に頼っていくスタイルの家族があっても良いのではないだろうか。そして、そんな家族に手を差し伸べる人で溢れるような社会であるべきだと思う。
いわずもがな、昔は「我慢」こそ美徳だった。『家庭管理能力の研究』などの著書を執筆している酒井ノブ子氏が56年に発表した論文の中でも「我慢強い性格を持つ人は家庭管理能力が高い」と述べられている。
この傾向は現代になっても変わらない。野村総合研究所(NRI)が2011年に25歳~44歳までの女性に対して実施したアンケート調査でも、家事支援サービスを利用しない理由として、24パーセントが「他人に家事・育児等を任せることに抵抗があること」と答えた。家事・育児を他人に任せるのではなく、我慢強く自分で取り組む人こそが良いのであるという価値観である。
しかし、今は共働き世帯が主流の時代。周りに頼ることへの抵抗感と、とはいえ誰かに頼らないと生活が難しい現実との間にあるギャップに悩む若い世代が多い。そんな中で、「無理をしない」ことの重要性をいまの子育て世代が語り始めているのだ。
「家族留学」事業においても、子育て世代から次世代に伝えられるメッセージの多くは「一人でやろうとしない」「完璧を求めない」「頑張りすぎない」などが多い。そう、これ以上は我慢の限界なのだ。
若くなくたって、誰もが子育ての初心者であり、未熟な存在である。無理に一人で抱え込まずに、パートナーや両親、周囲を頼れる力こそこれからの家族に求められるスキルなのかもしれない。
先出の旦那は「この年齢で子どもがいるというだけで尊敬される。問題が起きた時でも逃げ出さなそうというブランディングになるよ(笑)」と、冗談めかして笑った。
めまいがするほどの困難を前向きに捉え続けるふたりから学べる家族の組織論のヒントは、未熟であることを受け入れ「頼る」ということだった。
連載 : これからの家族のデザイン
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