上海で「モバイル決済」ライフをしたら、日本の遅れを痛感した

今年2月18日上海にオープンしたスタバの新形態「STARBUCKS RESERVE ROASTERY SHANGHAI」は世界最大。今後、東京にもオープン予定。店内は混雑しており、支払いはスマホが定番


上海の別の友人に連れられて行った広東料理店では、支払いだけでなく、料理の注文まで自分のスマホでできた。テーブルに貼られている店のQRコードをスキャンするとメニューが立ち上がり、そこから注文すると料理が出てくるのだ。

店員は料理を運び、片付けるだけ。支払いも席でモバイル決済し、レシートをもらったら、あとは店を出るだけだ。日本の飲食店によく見かけるタッチパネル式メニューがずいぶん時代遅れに感じたものだ。


店にはリアルメニューもあるが、注文はスマホから

シェアサイクルは日本で登録するとお得

先ごろ日本に進出し、日本のタクシー会社と提携した中国の配車サービス「滴滴出行」は「ウィチャットペイ」にプラグインされているので、アプリをダウンロードする必要がない。登録をすませて、地図ページを開くと、自分の周辺の地図が現れ、近くにいるタクシーが表示される。

配車サービスを利用するには、「你哪在上车(あなたはどこ?)」「你要去哪儿(どこに行く?)」の項目に地名を中国語で入力しなければならないため、簡単な中国語の語学力が必要となる。入力後、自分を拾いに来るタクシーのナンバープレートと運転手の名前が表示される。

あとはそのナンバーの車を探すだけだが、向こうも雑踏の中にいるこちらを探しているので、たまに電話がかかってくることもある。このとき運転手からの電話を受けるには、中国の携帯電話が必要で、応答も中国語の会話になる。単なる電子マネーの移動ですむ買い物や支払いとは違い、人が介する分だけ利用のためのハードルは上がる。

同じことは、デリバリー(出前)のサービスにもいえる。好きな店とメニューを選び、決済をすませると、10数分後にホテルのドアの呼び鈴がなり、出前が届く。今回ホテルの近所の食堂から揚げパンと豆乳を届けてもらったが、こちらの居場所を中国語で入力して伝える必要があり、タクシー同様、バイク便の運転手から確認の電話がかかることもある。

サービスのきめ細かさや奥深さを実感したのは配車サービスだ。呼べるのはタクシーだけではない。「快车(VIP車)」「出租车(タクシー)」「小巴(ミニバス)」「专车(専用車)」「顺风车(乗り合い車、複数名乗車するので安いが時間がかかる)」「自驾租车(自家用車、すなわち日本の白タク。中国は合法)」など、利用者のニーズに合わせて車のタイプを選べるのだ。中国のライドシェアが進化し、サービスの多様化が進んでいる一例といえるだろう。


タクシーがあと何分くらいで来るかもわかる。タクシーよりライドシェアの自家用車のほがサービスがいいという話も。

そして、これはウソのようなホントの話だが、中国で日本人がシェアサイクルを利用するのはきわめて簡単だ。中国のシェアサイクル大手の「モバイク」が日本でサービスを開始しているため、日本でアカウントを取得すれば、中国でも乗れるのだ。

シェアサイクルには故障や盗難がともなうため、利用者は登録時にデポジット(保証金)を払う。中国で「モバイク」を登録すると299元(約5000円)かかるが、日本で登録する「モバイクジャパン」ではなんと無料。利用のための料金チャージも500円から。1回の利用は基本30分1元(17円)で驚くほど安い。

以前、本コラムで書いたように、日本の一般住民を対象とした中国のシェアサイクル事業の行方にはまだ不透明なところがあるので、いつまで無料で登録できるかわからないが、いま中国に行けば日本人は現地の人たちよりお得に乗れるというわけだ。

すでにお気づきかと思うが、今回の実地検証のために用意したのは、日本のスマホに加え、数年前に中国で購入したSIMフリースマホだった。配車サービスやデリバリーを利用するには、中国の携帯電話番号での登録が必要だったからだ。

短期旅行者がそのために携帯電話を購入するのは現実的ではないかもしれない。それでも、いま世界でいちばん進んでいる中国のフィンテックは、ここでしかできない特別な体験であり、いまや一種の観光の目玉といってもいいかもしれない。一度トライしてみるのも面白いのではないだろうか。

とはいえ、今日の中国で急速に進む監視社会化とモバイル決済サービスには大きな関わりがある。次回は、実際に使って見えてきた中国社会の実相について考えてみたい。

【追記】
本コラムでは「すでに1年くらい前から、日本のスマホでも「ウィチャットペイ(微信支付)」というモバイル決済アプリのアカウントを取得すれば、現地の人たちと同じように利用できる」と書いたが、その後、新規の取得ができなくなったという声が聞かれるようになっている(2018年5月30日現在)。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文=中村正人

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