Forbes JAPAN 編集部 編集長


期待をかける人たちはいた。松下電器時代の同僚は、「貯めたカネがある」と、300万円を出資してくれた。「お前の可能性に賭ける」と、1000万円の出資を申し出た先輩もいる。そのときばかりはさすがに手が震えたが、先輩が言いたかったのはこういうことだと三寺は理解している。「日本の製造業はこんなもんじゃないだろう。新しく希望のある製造業が生まれるんだったら、その夢に賭ける」と。

16年、ミツフジはIoTウェアラブル「hamon」を発表した。hamonの名は、心臓からエネルギーが全身に広がるイメージと、庭の手水鉢に水が落ちたときの「波紋」を重ねたものだが、予想しなかった用途が、次々と舞い込んできた。


2016年、自社初のIoT最終製品サービス「hamon」を発表。伸縮する生地が特徴。クラウドまでトータルで開発している。

前出の小副川が大学に行くと、「こんなにきれいに心電波形が取れるのか」と誰もが驚く。

「波形を見た先生たちは、そのデータを分析されます。例えば、自律神経の異常が心電間隔の振れ幅に出る。それをもとにアルゴリズムをつくり、予知という領域に進んでいく。目を輝かせながら、『こんなこともできるんじゃない?』と次々とアイデアを出されます。そして、『この病院を使っていいよ』とか『私も協力してあげますよ』と、おっしゃるんです」

人と出会い、話し、可能性を発見していく。会話と技術の掛け合わせが、進化につながっていく。hamonを明確に「未来の予知」と捉えたのは、アメリカのプロスポーツだった。三寺が話す。

「アメリカではスポーツインテリジェンスという分野が進んでいます。選手に莫大な投資をしているので、最大のパフォーマンスを出すために、コンディション管理だけでなく、スターティングメンバーやリクルーティングといった選手の未来予測に使おうというタレントマネジメントにつながるのです」

バスケットボールのフリースローを同じ姿勢で行っても、入るときと入らないときがある。原因は、見えない体調にあるのではないか。波形から分析ができないか。そう考えられ始めたのだ。

ビジネスマンのストレス管理にも同様のことがいえる。頑張っている人や上昇志向が強い人ほど、体が壊れていることに気づかない。だから、「体調を壊す前に処置をする」という予防につながっていく。

つまり、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのように、未来を先回りして見ることで自分の未来を変えることになる。これを生体データで行うことが、ミツフジのビジネスになったのだ。

社長を継ぐ際、汚れた机に座った父親がこう言ったという。「会社って、面白いもんやで」

「よう言うわ」内心、三寺は呆れたが、父はこう続けた。

「人間、裸で生まれてきて60年も生きると、いろんな人から助けられる。会社も60年生きとるということは、そういう歩みがあって、これからも助けられながら生きていく。社長という仕事は、それを見守ることや」

三寺は「そうか、自分が助けてもらっているのではなく、ミツフジさんという自分とは違う人が助けてもらっているんだ」と納得した。自分の仕事とは、ミツフジを横で支えることなんだ、と。自分のようで自分ではない会社。自分なのに自分には見えない生体データ。いずれも誰かとの関わり合いによって存在するもので、未来はそうした関わりから「導かれる」ものかもしれない。

父親がすべてを見通していたのかどうかはわからないが、社長を息子に託すとき、こう言ったという。

「だから、楽しんだらいいんや」


三寺歩◎1977年2月京都生まれ。立命館大学経営学部卒。在学中の2001年に海外在住者向けネット書店「ねっとほんや」を起ち上げる。01年、松下電器産業に入社。その後、シスコシステムズ、SAPジャパンなどIT企業で営業職を経て、14年に実家の三ツ冨士繊維工業に入り、社長に就任。15年に「ミツフジ株式会社」に社名を変更した。

文=藤吉雅春 写真=佐々木 康

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