アパレル版「アンドロイド」を目指す、スタートアップの挑戦

山喜社長の白崎雅郎(左)、オリジナル・スティッチCEOのジン・コー(右)。


だが、そんな山喜が取り扱う衣料品の市場は大きな変革期を迎えている。ブランド品を多く揃える百貨店から、安値で流行品を売るファストファッションのユニクロやZARAへと主役の座が移り、そしていま、ITの進化と消費者の好みの変化に機敏に対応する新興勢力が存在感を増している。ネット通販(EC)である。

「アパレル業界で大きな問題になっているのは過剰在庫です。ECビジネスは、店舗や在庫を持たないサプライチェーンによって浮いたコストを製造費に上積みし、高品質なものを安価に提供できる」と山喜の社長、白崎雅郎は指摘する。世界で150兆円、日本では14兆円にものぼる衣料品市場。実際、そのうちEC比率はそれぞれ18%、10%で成長し続けている。そんな伸びしろに、ジンは目をつけたのだ。

現在、OSの会員数は世界で40万人、そのうち日本は15万人で、ともに15年比40%増と急激に増えている。17年11月にはAIが肌のトーンや顔つきを瞬時に認識して似合うシャツを提案するアプリ「スタイルボット」をローンチ。返品率は業界平均の20%を下回る4%を実現した。価格は既成品と変わらない1着4980円だ。

「我々が欲しいのは目先の利益ではなくマーケットシェアです。構築したプラットフォームはオープンにして他のアパレル企業や百貨店にも提供しています。導入先は当社に課金手数料などを支払いますが、時間とコストをかけずにカスタムEC事業を始められる。ちょうど、スマホOSのアンドロイドと同じ考え方です。今後は日本で販売されるアパレル商材のカスタムECの多くが、我々のプラットフォーム経由になることを期待しています」
 
こうしたジンの、いわゆるシリコンバレー流の取り組みを俯瞰してみると、日本はまたしても、やられっぱなしになるような気がしてくる。日本企業はなぜ自らプラットフォームをつくり、世界を目指すことができないのか。
 
ジンによると、スタンフォードやSOMAの起業家は、最初からグローバル展開を考えるので、どこでも簡単にコピー&ペーストできるプラットフォームの構築を図るが、日本企業の多くは内向きで、自前主義と改善に終始するという。
 
確かに、誰もが簡単に世界で通用するシステムを開発できるわけではない。だが、あのインスタグラムだってサーバのパンクなど幾度のピンチを救ってくれたのは、同じコワーキングスペースに入居するエンジニア仲間だった。

コワーキング大手のWeWorkは今春、東京の新橋などでスペースを開設するという。ネットを介した通訳サービスもあるそうだ。日本企業はそこに若手を派遣して仲間づくりから始めてはどうか。わからないことがあれば、きっと、おしゃれなドレスシャツを着たSOMAのエンジニアが助けてくれるはずだ。


ジン・コー◎1980年マレーシア生まれ。2000年カリフォルニア大学バークレー校卒業。シリコンバレーで2社のスタートアップを創業後、14年にオリジナル・スティッチを立ち上げた。16年にはスタンフォード大学のアクセラレータープログラム、スタートXに参加し、出資を受ける。

白崎雅郎◎1958年福井県生まれ。80年福井大学卒業、山喜本社(現・山喜)入社。2009年物流部門長、12年取締役、14年常務を経て、17年に3代目社長に就任。18年2月には麻布テーラーを展開するメルボグループと合弁会社を設立し、メイド・イン・ジャパン・ブランドの世界展開を狙う。

文=北島英之 写真=近藤信也

この記事は 「Forbes JAPAN ニッポンが誇る小さな大企業」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事