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西武信金の菊村光(左)とワンダーライン社長の西岡宏星(右)。西岡は昨年12月にペット向けラグジュアリーケアコスメ「Chuck's TOKYO」をオープン。写真は表参道の同店で、西岡が抱くのが店名になったチャック。

預貸率82.73%、不良債権比率1.32%、利益は業界トップ105億円。「カネを貸さない金融機関」の風潮とは正反対。地域経済の底上げに成功した信金があった!


東京の表参道にある西武信用金庫・原宿支店。業務用の自転車に乗った菊村光が、ペダルを漕いで、最新のファッションや流行に彩られた街を進む。

信金マンが自転車で移動するというと、たいていは顧客を次々と訪ねて預金を集める姿を思い浮かべるのではないであろうか。

だが、菊村の仕事はそうではない。

主要な顧客である中小企業の経営者の訪問は3社から4社ほどに絞り、預金を集めることもしない。資金繰りや融資にとどまらず、製造、販売、労務といった経営にまつわるあらゆる悩みや課題について、専門家を紹介して、相談に乗る。

現在、西武信金では「お客さま支援センター」というキャッチフレーズを標榜し、顧客の抱える課題を解決する力を「商品」と定義づけている。事業支援、街づくり支援、資産形成・管理支援が3つの柱で、29歳の菊村は客の支援を行う「事業コーディネート」担当である。

このお客様支援センターこそ、西武信金が預貸率82.73%、貸出残高は(信金)業界トップの年間1970億円という業績を挙げるうえでの立役者となっている。

スピード重視の「応需期日」

東京・南青山のマンションの一室で、iPhoneケースの製造販売を一人で始めた青年がいた。西岡宏星─。彼は、売り上げが急速に伸びているのに経営というものに知識がなく、外注や海外に生産拠点をつくりたくとも資金の工面の仕方もわからないでいた。創業2年目の2014年、オフィスに近い西武信金・原宿支店に相談の電話をかけた。応対したのが入庫4年目の菊村であった。

若い女性の好む「カワイイ」というキーワードに照準を当て、手ずから商品づくりを始めた西岡は、勤務先の化粧品問屋を辞め、ワンダーラインという会社を2013年に設立していた。

西岡は、西武信金の営業エリアである東京・昭島に生まれ育ち、その店舗や看板に親しみがあった。会社を始めるにあたっては、洗練されたイメージのあるところを拠点としなければと考え、南青山にある月額4万円のレンタルオフィスを借り、1日3時間睡眠で、毎日100個のオリジナルiPhoneケースを生産していた。

孤軍奮闘する事業から脱し、海外で委託生産する体制に乗り出したいと決意したとき、西岡が頼ったのは、敷居の高そうなメガバンクではなく、幼いころから名前をよく知る西武信金であった。

後日、3年分の事業計画書を携えて、西岡は菊村を訪ねた。3週間程度で1500万円の融資が決まる。以後、支店長をはじめ、上司や同僚を紹介された。しかし、ワンダーラインを訪問する際、菊村が上司を伴ってきたことは一度もない。それだけの権限や決裁権を持っているということである。

西武信金には「応需期日」という独特の用語がある。顧客の需要すなわち要望に、素早く応えることを重視するものである。1か月での返答を求められたら3週間で、融資の可否を1週間で求められれば4日、5日で応える。融資枠を設定している顧客に対しては翌日に融資する。とにかくスピードを重要視している。その結果、他の金融機関より少しばかり金利が高い場合でも、顧客は西武信金を頼る。

事業が拡大発展すれば、取引は深まり、融資額が増える。同時に預金量も増えるため、西武信金は、別の顧客へ融資できる体力を養うことになる。

1本の電話から広がるスピード感あるビジネスについて、菊村は「お客さまの熱意が私の熱意になり、その熱意が支店長にも伝わります」と静かに笑う。他方、「ただし、われわれにはソリューション(問題解決)能力が充分にはない。専門家をコーディネートする、いわば前さばきの役割です」とも話す。

ワンダーラインは、現在、西岡が構想していたとおり、スマホケース事業だけにとどまらず、ペットケア商品の企画や製造に乗り出している。インターネット販売のみならず、国外からの製品輸入も展開している。海外の事情に詳しく語学にも堪能な専門家を紹介したのも、新宿の伊勢丹にオリジナル商品を置くことができるように仲介の労をとったのも、西武信金なのである。


アレルギーの犬が増加していることもあり、添加物なし、グルテンフリーで産地にこだわった天然素材のフードをしゃれた携帯ケースに入れて販売。ケア商品も品質重視で、日本にはなかった高品質ペット市場を開拓する。

文=樽谷哲也 写真=佐々木 康

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