消えゆく「ハレとケ」の文化と女子のヘアサロン投資

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友人の結婚式に参列するため、銀座のとあるヘアサロンに出かけた際に面白い話を耳にしました。

銀座という土地柄、これまでは平日の夜、クラブやキャバクラに出勤する女性たちの利用客が多かったらしいのですが、ここ1、2年、同じ平日の夜、デートや友人との食事の前にヘアサロンを利用する女性たちが増えているというのです。しかも、土日の日中にも、結婚式参列のためではなく、ちょっとしたお出かけのためにヘアセットを利用する女性も増えているとのこと。

女性たちにとって、いまヘアサロンは、家を出て目的地に向かう途中の立派な“経由地”となっているのです。ドライヤーをした状態で家を出て、ヘアサロンで仕上げる、いわば身支度の延長的な存在です。なかには起きたままの姿でヘアサロンを訪れ、セットをしてもらいながらメイクを仕上げる強者もいるといいます。

柳田國男先生が唱えた日本人の伝統的な世界観に、儀式や祭などの非日常を「ハレ」、日常を「ケ」とする「ハレとケ」というものがありますが、これまでだと「ハレの日」利用が多かったヘアセットが、「ケの日」までを華やがせる方法として女子に活用されているということなのです。

SNSの浸透により、現代は365日発信の時代となりました。芸能人でなくとも、自分が写った画像を世界に向けて発信する機会は多々あり、ここという時だけ頑張るのではなく、毎日ドラマティックな自分でいることに重きを置くという流れができているのです。「ハレの日」に限らず、「ケの日」まで大切にする。この意識シフトは、美容、食事、服装など、多くのジャンルに当てはまります。

美人は生涯年収で3000万円得

さて、ヘアサロンの日常使いは、自分自身への「投資」という意識が女子に浸透してきたことも理由のひとつです。髪の毛は、顔の額縁にあたるもので、その人の印象を左右するとても大切なパーツです。私の友人のA(20代)は、「ヘアスタイルが素敵な日は、自信をもって人と接することができる」と宣言しています。

スーツが男性共通の戦闘服だとしたら、女性の戦闘服はジャケット、スカート、パンツ、下着とさまざまですが、さらにその中身である自分自身が戦闘能力を左右する大きなファクターとなります。

アメリカのテキサス大学の研究では、美人は不美人と比較して生涯年収で約3000万円も得をするという結果が出されているのは有名になりつつある話。キャリアを積んだ美しい女性や、才色兼備の女性経営者にスポットライトが当たる機会も増えてきたなかで、異性のためだけでなく、社会的にも見た目を大切にしたいと感じる機会が増え、「キレイになる努力」が必須のものとなりつつあるのです。

生まれつきの目鼻立ちはあるにせよ、投資によってある程度の「キレイ」は叶います。メイクもダイエットも美容室も、もはや将来のリターンを見据えた立派な投資となり得るのです。

もちろん提供側の変化も影響しています。いま麻布十番にある「ジェットセット」をはじめ、巷ではシャンプー&ブローの専門店も増加中。起きたままの髪で(美容院へ行くために身なりを整えることなしに)自宅からサロンに行ける手軽さと、プロフェッショナルにしかつくれない仕上がりの美しさが人気の秘訣です。

日常をドラマティックに。この潮流の中で、ヘアサロンの利用はますます気軽なものに変化していくでしょう。そしてヘアセットだけに限らず、女性の日常をほんの少し華やかに変える、「その手があったか!」というビジネスが、今後ますます増えてくるのではと推測しています。

連載:経済を動かす「女子」の秘密
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文=山田茜

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