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2018.04.10

ブロックチェーンが切り拓く、資本主義のその先

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ブロックチェーンによる「分散化」はどんな変化を起こすのか?

2017年の中頃から、「個人のエンパワーメント」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。話者によって指している意味が異なるかもしれませんが、基本的には「個人がより多くの選択肢を選び取れるようになる」という文脈で、この言葉が使われているようです。

さらに、ここ最近注目されているブロックチェーンとの関係で、「分散化」という言葉も頻繁に使われるようになってきました。一般的には「非中央集権化」「民主化」などと同様に「個人のエンパワーメント」に近い文脈で使われる「分散化」ですが、ブロックチェーン技術の最前線に関わる立場の実感として、いま私たちが直面している「分散化」は、これまでとは位相の異なるものだと理解しています。

それは、ブロックチェーンによる分散化が、「個人が選択肢そのものを生み出す」ことを可能とするからです。

ここで私が言及している「選択肢」とは、これまでの人間社会において所与のものであった「どのようなコミュニティで、どのようなルールに従い、何を信じて生きるか」にまつわる選択肢のことです。

今回は、人とコミュニティ、人とルールの関係がブロックチェーンによって、どう変化しつつあるかについて、お話していきたいと思います。

なぜ私たちはコミュニティに属し、ルールを守るのか?

アリストテレスが人間を「社会的動物」と表現したとおり、私たち人間は、ある目的や思想を共有する相手と「社会」という共同体を構築します。サンデルはこれを「コミュニティ」と表現し、そこにはコミュニティの目的達成を最大化するためのものとして、法律、規範、慣習、主義、思想、価値観、倫理観といった「ルール」が根付いていると分析しました。

普段私たちが従っているルールとは、コミュニティの目的を果たすために定められたものなのです。

私たちを取り巻くルールのほとんどは、私たち個人が生まれる前から存在しています。最たる例は、利益の追求を主眼に置く"資本主義"や、生まれ落ちた土地と人がアイデンティティと結びつく"国民国家主義"でしょう。こうした大きなルールは、さらに数多くのルールから成り立っています。

「ルールはコミュニティの目的達成のためにある」とはどういうことでしょうか? ほとんどのルールは基本的に、あるコミュニティに参加している人々が「こうなったらいいな」「こういうのはいやだな」という気持ちをベースに設計されています。人がいて、コミュニティがあり、共通する価値観があり、ルールが作られるわけです。

一度作ったルールをコミュニティに浸透させ固定化するには、そのルールを象徴するようなシンボルを用いるのが有効です。シンボルは、コミュニティの共同幻想として、ルールを補強したり、円滑に運用したりするために機能します。

例えば、私たちが日常的に触れる「円」という通貨は、私たちが身を置く日本という国、その社会・経済・法律などの大きなルールを象徴するシンボルです。

ルールを象徴するシンボルの2つの側面

こうしたシンボルには「価値の象徴」と「価値の基準」の2つの側面があります。

前者は、宗教における神や民族のアイデンティティなどのように、抽象的で実体をもたず、まさに象徴としての役割を担います。

後者は、より定量的なもので、コミュニティ内における個人の行動を測る指標となるものです。資本主義における円やドル、ユーロがそれにあたります。その他にも、Twitterにおけるフォロワー数や、Facebookにおける「いいね数」、Youtubeにおける再生回数もこれにあたるでしょう。

シンボルは、コミュニティに属する人々の価値判断に影響を与えます。例えば、皆さんが何かにお金を支払う際に、その対象にどれだけの金銭的価値があり、支払う対価に見合うものなのかを判断します。その他にも、Twitterのフォロワー数をみて、よりフォロワー数が多い人をより影響力のある人と判断するかもしれません。

私たちが価値観と呼んでいるものは、このようなシンボルによって物事を判断することともいえるでしょう。
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文=森川夢佑斗

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