ちなみに僕のいう世界制覇は、ただ自分の店を増やしていくというのではなく、先人から伝わるレシピを生かしながら、酸味・苦味・うま味をベースにした食事とそれを囲む食卓を提供することで、「塩・砂糖・油」漬けになっている現代の“食餌”から人々を解放していくことです。そのためにはまず、要人の胃袋を掴むことが近道。よく「男の胃袋を掴む」ことが結婚生活において大事だと言われますが、それと同じです。
その視点でいうと、ロンドンと同じくスイス・ジュネーブも魅力的です。物価が高いとは言われていますが、国際連合欧州本部、世界保健機関、世界貿易機関、世界経済フォーラム、欧州サッカー連盟などの国際機関、グローバル企業もたくさんあり、教育も充実している。いわゆる要人が集まるここで“胃袋ネットワーク”ができたら、面白いだろうなと思います。
僕の肌感覚では、イギリスは、英語という語学と大陸制覇の遺産を通して、発展しようとしている都市に投資をしながら世界をコントロールしている国。スイスは世界中に傭兵を送って重要な場所を抑え、富裕層向けの金融政策と時計を通して世界をロックしている国という感じでしょうか。
そして、僕の住んでいるフランスは、自国の芸術文化を通して世界とコミュニケーションを取り、傭兵ではなく、料理人を世界に送り込む(胃袋を掴む)ことに成功しているように思います。僕もまた、その一員です。
改めて思うのは、レストランの経営というのは、経済的な面ももちろんですが、その土地土地に定着することで築いていける人間関係を含めて、面白いビジネスだということ。もう一歩踏み込んで友達になるのは、性格的なところも関係すると思いますが(苦笑)。
僕自身、次どの場所へ行くのかはまだまだわかりませんが、お店を通してできている“胃袋ネットワーク”という豊かな財産を活かして、人間の基本である食から、世の中を変えていけたらと思います。
ニース在住のシェフ松嶋啓介の「喰い改めよ!!」
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