人のつながりで、仕事に変化を起こすには?

3月16日に都内で開催された「Sansan Innovation Project」


「キックスターターは、クリエイターたちが自分のやりたいことを実現するために、資金を調達したりコミュニティを作ったりするためのサービスです。昨年9月にその日本語版をローンチしたんですが、その中で感じるのは、やっぱり日本人は、自分が作っているものを途中で発表したりだとか、プロトタイプの段階で出して、みんなに文句を言われたりするのがすごく苦手のようで。完璧に仕上げて、誰にも文句を言われないものを出すということに命を懸ける文化なんですよね」

「でも実際は、途中でいろいろなことを言ってもらった方が、いいものができたりだとか、さらにはそこに『掛け算』が生まれたりということがある。そこに武井さんのようなコミュニティマネジャーとか、間に入って音頭を取ってくれる人がいると、より積極的に自分の考えていることを表に出すようになるのかもしれないな、と」

クリエイターそれぞれのクリエイティビティを引き出す役割の人物がいれば、コミュニティはより活性化するのではないか。児玉はキックスターターでの自身の経験を通じ、そうした思いを強くしているという。


武井史織/Adobe Creative Cloud Community Manager

自社の利益だけ追求しても、コミュニティは「強く」はならない

PhotoshopやAcrobatなどで有名なソフトウェアメーカー、アドビシステムズの武井史織は、日本を担当する初めてのコミュニティマネジャーとして、日本のクリエイターコミュニティの創出と活性に努めてきた。

その武井が最近になって力を入れているというのが、まさに児玉のいう「掛け算」に当たる活動だ。それも、クリエイター同士のコミュニティに閉じるのではなく、地域コミュニティや教育機関と掛け合わせることで、クリエイターのもつクリエイティビティを社会的な課題の解決につなげようとしている。

そうした「掛け算」をする際に武井が何より優先して取り組んでいるのが、異なる出自のメンバー間でビジョンを共有すること。それによって“強いつながり”は生まれ、大きなエネルギーの源になると武井は言う。

「企業のメリットだけを前に出してやっていこうとすると、オーナーシップを持って参加してくれる人の数は増えないと思うんですよ。だからまず考えるのは、ビジョンを共有できるかどうか。それができるとオーナーシップを持ってくれる人口が増え、その活動自体が“強いつながり”として機能してくると考えています」

とはいえ一方で、アドビはれっきとした企業体である。こうしたコミュニティ活動は、めぐりめぐって必ず自社の利益にもつながると考えている。

「アドビはツールを提供している会社。それを使ってくれる方々が本当に描きたいものを描ける環境がない限り、ツールの価値自体もついてこないと思っています。そうした方々が表現したいものを表現したいときに表現できるためには、社会全体が表現しやすい世界になっていなければならない。そこに業界をまたぐことの必要性があると考えて、掛け算のプロジェクトをたくさんしているんです」
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文=鈴木陸夫 写真=吉岡晋

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