『マッチメイカーズ』(未邦訳)の著者で経済学者のデビッド・エバンスとリチャード・シュマレンシーは、多面的プラットフォームが成功するうえで「しっかりとした運営が不可欠」と指摘する。そして、その理由として経済学で言うところの「外部性」を挙げる。
あるユーザーが、別のユーザーの行動によって同一プラットフォーム上で意図しない影響を受けることだ。例えば、ある人が公園に花を植えた場合、来園者がその美しさを鑑賞できるのなら「正の外部性」が生まれるが、それが原因で害虫が大量に発生するようなら「負の外部性」が生じる。
同じように、ユーザーの態度や行動によって正負の外部性が起こりやすい。とりわけ、負の外部性は多面的プラットフォームにとって致命的である。ユーザー数を増やしたのと同じようなスピードでユーザー離れを引き起こす可能性があるからだ。
イーベイやアリババといったオンラインマーケットにしても、利用者が互いの信頼性が何らかの形で担保されていなければ使われない。購入してから隠された問題があることが判明する「レモン市場」になることを避けるためにも、運営主体には積極的なコミュニティ作りが求められる。
こうした“ガーデニング(造園)”を通じて人気サービスに成長したのが、ゲーム配信サイトの「Twitch(ツイッチ)」だ。Twitchのエメット・シアCEOは、「プラットフォーム企業のCEOは、庭師のようなもの」と表現する。そして、「コミュニティの価値観を守るためにも、そぐわない行動を取るユーザーを排除することをためらってはいけない」と諭す。
「運営者は迷惑行為を繰り返すユーザーには『その行動はここでは歓迎されていません』と伝えることで他のユーザーを守る必要があります」
価値観の合うコミュニティの形成は、自浄作用を作り出し、運営者に過度な負荷をかけることなく、プラットフォームに健全な成長を促すメリットもある。
住宅リフォームサイト「Houzz(ハウズ)」も熱心なユーザーで形成されたコミュニティを基盤に伸びてきたプラットフォームの一つだ。現在、4000万人以上のユーザーを抱える同社のアディ・タタルコCEOは、「コミュニティが自発的に環境作りに関わってくれたのが大きかった」と振り返る。
「ユーザーが私たちのコミュニティの価値観に共感して活動し、迷惑をかけるユーザーを注意してくれます。お陰でとても円滑に運営できていますね」
TwitchやHouzzはコミュニティとの良好な関係を軸に、ブランドを確立するに留まらず、サービスの種類を増やすなど経営戦略を進めてきた。
コミュニティの存在を認識し、その声に真摯に耳を傾け、ときには価値観が相容れないユーザーを排除することを厭わない姿勢が、これからのデジタル・プラットフォーム経営を行ううえで必須だ。