医学部以外の大学に在籍する、あるいは卒業した者が、医学部をめざす「再受験生」も増えている。私の指導した受験生では、東大、早稲田、慶応、上智などのトップ校の在籍生や卒業生、数学の教員や弁護士や経営コンサルタントまで、実に多種多彩なキャリアの人が医学部を再受験し進学している。
再受験生や多浪生など大人の受験生に寛容と言われる大学の医学部には、10%を超える再受験生が入学し、「再受験コミュニティ」なるものができている大学もあるという。その中には、ボストン・コンサルティング出身の学生や、東大や海外の有名大学の博士課程でPh.D.を取ってから入学した者などもいる。
医学部が人気になった理由
なぜ、こうも、猫も杓子も医学部という状況になったのか。医師は、昔からよい職業、目指すべき職業ではあった。報酬もよく、ステータスもあり、安定している。何より、「モテそう」である。しかも、良い生活ができるうえに、社会への貢献心が満たされる。単なる金儲けで、医師を目指す若者はほとんどいない。
しかし、これらだけでは、近年の医学部志望者の増加を説明できない。ほかの要因はいくつかある。
まず、2007年に発覚し、日本中で問題となった「妊婦たらい回し」(受け入れ病院が見つからず出産間際の妊婦がたらい回しにされた)事件が契機となっている。当時の舛添要一厚生労働大臣は、それまでの政府の公式見解を180度転換し、「医師が不足している」との認識を示した。
これにより、7625人だった全国医学部の定員が漸次増加されていき、2年後の2010年には1000人以上多い8846人となった。医師への道が政府公認で推奨されることになったのである。
そのころ、世の中はバブル崩壊後の「失われた10年」が20年になりそうな気配を見せていた。ちょうど折も折、2008年秋には、アメリカでリーマンショックが起こり、世界的な不況の波に巻き込まれる。安定志向がデフォルトとなった若者の進路として、高齢化により需要が見込まれ、安定的に従事できる職業として「医師」が選ばれるのは当然であったといえる。