そうやってデータからわかったことを企画担当と何度もディスカッションしたり、打った施策の効果を考察するうちに、チーム全体に少しずつ『ユーザーの定着のためにはこの機能を使ってもらうことが大事だよね』という一貫した意識が根付いていきました。
データ分析には、みんなが『何となくそうかも』と思っていることを数字という事実によって明確にすることで、チームの強いコンセンサスを少しずつ形成していくという力があります。シャープな1発の分析結果でバシッと意思決定をできるのもよいのですが、チーム全員が気持ちを向ける方向、やるべきことが決まって安心感を作るというのも、ファジーですが重要な仕事だと思っています。
そうやって、データ分析を使ってじわじわと、チームとしての大きな意思決定をデザインしていくのです。
社内の「問題発見機」であり「意識統一機」
伊豫:メルカリでは、売り上げや継続率、お客さまの問い合わせといったあらゆるデータをクラウドで連携させていて、テーマごとのKPIを“ダッシュボード”で誰もが確認できるようになっています。そのため現場の企画者はもちろん役員陣まで、各人が欲しい情報を自分でチェックするようにしている『ダッシュボード文化』があります。
BIチームは、基本的な数字に関して、「データを引っ張ってきて」と依頼されることがほとんどありません。このダッシュボード文化を形成したところなどは、BIチームの大きな功績だと思っています。
樫田:これは、僕らが意思決定をするためのデータを提供するだけではなく、会社全体にデータを起点として意思決定する文化を作るためのものでもあります。「この数字が下がっているが何か問題があるのではないか?」とデータアナリスト以外の人でも、素早く気づけるようにしているわけです。
──問題に気づく機会が増えるというのは、事業にとってもかなり大きな効果ですね
伊豫:そういう意味で、ダッシュボードは「問題発見機」の役割を果たしているのかな、と思います。あらゆる情報を可視化することで新たな問題が見つかりやすくなり、新しい改善の起点にすることができます。「問題発見と課題提起」はBIチームの重要なロールだと考えています。
樫田:そうですね。僕はそれに加えて、自分たちは「社内意識統一機」の役割もあると思っています。さっき話したメルカリUS版の分析の例もそうですが、みんなが「この指標が大事、この機能が成果を上げている」とわかれば、目指すべき方向性が揃い、開発や事業運営のパワーになっていくはずです。
最近は本当に大事な事業指標に意識を向けてもらうために、社内コミュニケーションツールの「Slack」に日々のKPIのサマリーを流す活動も実験的に始めています。これも、ダッシュボードからさらに一歩進めて、チーム全体の意識を統一するための活動です。
ダッシュボード文化が根付くと、みんなが日頃から数字を気にしてくれるようになります。そうすると、「数字がこういう状態だから、こういう施策を打とう」というBIチームからの提案も通りやすくなるので、データアナリストが活躍しやすい環境づくりにもつながっていると思います。データ分析が役に立つと思ってもらうための土壌づくりです。
「メルカリ1.0」から「メルカリ2.0」へ
──先ほどはアメリカに注力しているというお話がありましたが、日本市場についてもお伺いしたいです。メルカリは日本市場で急成長し、すでに確固たる地位を築いたのかなと思うのですが、これからの課題はどのような点にあるのでしょうか?
伊豫:僕はメルカリのこれからのフェーズを、「メルカリ2.0」だと考えています。誰でも簡単に使えるフリマアプリ「メルカリ」をできる限り多くの人に使ってもらう「メルカリ1.0」の最大公約数的な目標は達成したので、これからは個別最適化していくことが課題です。それぞれのユーザーごとに使いやすくしたり、フリマの解釈をさらに広げたりしていければいいな、と思っています。