この謎を紐解き、腸内環境を適切にデザインすることで病気ゼロ社会の実現を目指すベンチャーが、メタジェンだ。独自技術「メタボロゲノミクス」を開発し、腸内環境と健康状態、そして、食事との相関関係の観点から腸内デザインに挑んでいる。
メタジェンの創設者である、代表取締役社長CEOの福田真嗣氏、取締役副社長CTOの山田拓司氏に、腸内環境から見る人類の未来について聞いた。インタビュアーは、人生100年時代における人の在り方を研究する「ヒューマノーム研究所」創立者の井上浄氏。
この連載では全5回に渡り、さまざまな切り口から「ポストヘルス時代」の人類の可能性に迫る。(第1回/第2回)
井上浄(以下、井上):僕が初めて腸内細菌を意識したのは、大学の微生物の授業で「便の半分以上は菌だ」と言われたとき。それに衝撃を受けて、人生で初めて自分の排泄物をまじまじと観察しました(笑)。
福田真嗣(以下、福田):便は情報の宝庫ですからね、見た方がいいですよ。人間の体はおよそ37兆個の細胞でできている。だけど、お腹の中には40~100兆個ぐらいの腸内細菌がいるって言われています。人間の細胞数と同等かそれ以上の生き物が住んでいるわけですよ。
山田拓司(以下、山田):遺伝子の数も比じゃないですよ。ヒトの遺伝子は2万5000個くらいですけど、腸内細菌の遺伝子は約1000万個。細菌は腸の中で複雑な生態系をつくり、その代謝によりビタミンや栄養素を作るなど、様々な役割を担ってくれているんです。
福田:だから僕は、腸内細菌叢はもはや、体内における「もう一つの臓器」と認識しています。それくらい重要な器官なのに、腸内細菌叢の詳細がゲノムレベルで解明され始めてからまだ十数年ほどしか経ってないんです。
腸内細菌の火付け役は、世界的に権威ある学術雑誌『Nature』で2006年に、「肥満に腸内の細菌が大きく関わっている」と発表したジェフリー・ゴードン氏。肥満の人の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)と痩せ型の人の腸内細菌叢をそれぞれマウスの腸内に定着させて、同じ餌を食べせたら、肥満のヒトの腸内細菌叢を持ったマウスが太ったというもの。衝撃でしたね。
井上:たった十数年ほど前ってすごいですよね。だって人類は、生まれてから「食って、出して」をずっと繰り返しているのに。そのメカニズムもまだきちんとは分かっていないんですよね。
山田:みんな、腸内細菌叢の重要性は経験的に理解しています。便の状態を見て体調を判断する文化は昔からあったし。だから、腸内細菌叢の機能をこれまで解明できなかった理由はその「複雑さ」に尽きると思います。
井上:研究結果から色々なブレイクスルーが起こる一方で、そのインパクトが社会まで全然伝わっていないのが残念ですよね。
福田:それが起業のきっかけでもあります。サイエンスは人類のためにあると思っていて、その研究成果を「どう使うか」に意味があると思うんです。学生の頃から腸内細菌を研究してきて、「いい研究論文を書いたら世の中が変わる」と思っていたけど、やっぱりそれだけじゃ難しいんですよね。社会還元への第一歩をつくることが次のミッションなのかなと。
井上:メタジェンを立ち上げたのが、2015年?
福田:2015年の3月です。起業しようとずっと思ってはいたものの、やっぱり研究者1人ではどうやったらいいかがわからない。そんなとき、共通の知り合いを介して、大学の教員をしながら会社を経営している人に出会いました。Joe Inoueっていう人なんですけど。
井上:僕ですね(笑)。
福田:話を聞くと、大学で教員として研究をしながらリバネスという会社で研究者向けの創業支援をしているらしい。「お、どういう事だ」と思って、構想を語り合ったのがきっかけでしたね。