この日、習近平国家主席は毛沢東にも匹敵する権力を手に入れることになった。北京の全人代は、これまで二期10年に制限されていた中国の国家主席の任期を「無期限に延長」にする、憲法改正を可決したのだ。
一方、香港では立法会議員の補欠選挙が行われた。昨年、香港高等法院は、2014年に世界が注目した民主化運動「雨傘運動」に関係していた民主派の立法会議員たちの議員資格を剥奪した。もちろんこれは北京の意向が働いている。習近平が、「中央の権力や香港基本法の権威に対してのいかなる挑戦も絶対に許さない」と、香港の民主派勢力に対して牽制の言葉を向けていたのだ。その言葉を習主席の指示と受け取った香港政府は、民主派議員の資格を剥奪し、その欠員を埋めるための補欠選挙なのである。
日本とは違って、香港では投票日当日まで選挙運動が行われ、最大の盛り上がりは投票日となる。香港の民主派は、統一候補を擁立して失った立法会の四議席の奪還を目指していた。民主派の現職の議員などそうそうたるメンバーが応援演説をする中、いちばん聴衆が集まったのは、周庭(アグネス・チョウ)がマイクを持ったときだった。
「諦めないでください。手にしている一票を軽んじないでください。個人の力を軽んじないでください。生きている心は誰かを動かせるから。諦めないで努力し続けていけば、いつか必ず成果を得られると、私は信じています」(翻訳・倉田明子東京外国語大学准教授)
雨傘運動で、世界中から注目を浴び、雨傘の女神と呼ばれていた象徴的人物である。まだ大学生だが、民主派政党「香港衆志(デモシスト)」の主要メンバーだ。堂々と語りかける彼女の演説に、道行く人は足を止めていた。
2014年の雨傘運動(Photo by Getty Images)
その日、深夜に開票された選挙結果は、民主派は四議席のうち二議席を守ったにとどまった。これによって、民主派勢力は議会で三分の一を割り込んで、重要法案を否決できる拒否権を失うこととなってしまった。
選挙の翌日、周庭にインタビューができた。実は今回の選挙、本来ならば彼女は応援ではなく、21歳の最年少候補として出馬するはずだった。
「昨年7月に議員資格を剥奪された一人は、私たちの政党の主席であるネイサン・ロー(羅冠聡)でした。彼が議会で行った宣誓に問題があるとして、議員資格が剥奪されたのです」