「日本を知る衝撃」を世界へ 「ジャパン・ハウス」3館長に勝算あり


関わりの深い西海岸で日本の魅力を発信したい ──LOS ANGELES 海部優子館長

気がつけば、2001年にロサンゼルス領事として赴任した時からずいぶんと経ちました。館長候補者としてお声がけいただいた時は、嬉しい驚きを覚えたのと同時に、実は相当迷いました。勤めていた銀行での仕事がとても充実していたからです。

お引き受けすることを決めたのは、日米関係に長く携わってきた人間として、ジャパン・ハウスを通じて日本の魅力を広くアメリカに、そして世界に知ってもらいたいという願いがあったから。日本の伝統、先進性、あらゆる豊かなものを発信する拠点づくりに自分も参加したいと思ったのです。

アメリカ西海岸は、100年以上前に日本人が入植した場所でもあります。私はロサンゼルスに来てから、日本にいる間はあまり接点のなかった日系人と触れ合うことで、彼らの歴史と経験に関心を持ち始めました。日系人の一部は第二次世界大戦中の強制キャンプ収容という悲しい史実を経て、日本との関係を精神的にも断ち切ってしまっていました。長い時間を経て、いま日系人の人たちはアメリカ社会の各分野で活躍しており、新たに日本に関心を向け始めています。彼らの支援と参加も得ながら、日米関係にとって重要なこのプロジェクトを成功させたいと願っています。


今年1月、全館オープン前に稼働を始めたギャラリー。ANREALAGE『A LIGHT UNLIGHT』展の様子。


日本の各地から集められたさまざまなプロダクトを扱うショップ。空間設計を担当したのは彫刻家の名和晃平。


5階にオープン予定のレストランのイメージ。日本とアメリカの旬の素材を活かした、洗練の日本食を提供する。設計は小坂 竜。(c)A.N.D.小坂 竜

文化を切り口にダイナミックな交流を

白人の割合がすでに半数以下となっているアメリカ西海岸では、ダイバーシティというのはもはや当たり前に存在するもので、それがこの土地ならではのオープンな雰囲気や活気の源にもなっています。先述した日系人の存在もあって、日本食も昔から浸透していました。とはいえ大多数のアメリカ人にとっては、鮨とひと口に言っても、ひと昔前までは生魚ものっていなければ、海苔も内側に巻いたようなフュージョンスタイルが当たり前でした。

しかし昨今はいよいよ日本食の一大ブームもあり、本格志向の美味しいものが食べられるようになってきています。文化交流のきっかけとしては、やはり食の持つ力は万人に対して偉大です。ジャパン・ハウスでは、まず本当に美味しい日本食を空間やもてなしも含めて提供していければと思っています。

さらに、ジャパン・ハウスがこの場所にできる理由についても触れておきましょう。そもそも西海岸は日本からの距離も近く、イベントや巡回展の開催などを通じて相互的な人的交流を育んでいくには理想的と言えました。またロサンゼルスの中でもハリウッド&ハイランドは、年間2500万人もの訪問客が集まるところ。エンターテインメント産業の中心地であり、映画、ファッション、音楽などさまざまな文化に関わる人たちがダイナミックに動き交流する、そんな地場の力を持っています。

ジャパン・ハウスでも、ファッションブランドとの企画展を開催したり、ハリウッドらしい文脈の中で日本の「リアルないま」を発信していきます。日本文化を、五感を通じて体験してもらえるという意味では、かつてない可能性を秘めた場所です。皆さんも、ぜひ遊びにいらしてください。



海部優子◎元外務省職員。2001年、ロサンゼルス領事として赴任。07年、外務省退職後、全米日系人博物館副館長を経て、MUFGユニオンバンク広報部マネージングディレクターを務める。


JAPAN HOUSE LOS ANGELES◎ジャパン・ハウス ロサンゼルス。ハリウッド&ハイランドセンター内の2階と5階部分から構成される。● Hollywood & Highland Center, 6801 Hollywood Boulevard, 2F and 5F, Los Angeles,. CA 90028 USA

文=大野重和

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