「日本を知る衝撃」を世界へ 「ジャパン・ハウス」3館長に勝算あり


日本文化との邂逅が、新たな豊かさと相互理解を育む ──LONDON マイケル・フーリハン館長

ジャパン・ハウス ロンドンは、デザインミュージアムなどの文教施設が立ち並ぶ地区にまもなく開館が予定されています。世界的にも有名なインテリアデザイナー、片山正通がデザインを手がけるという点でも、またすでに現地では数年来のブームとなっている日本食の本格的なレストランが入るという点でも、地元では期待の声が寄せられています。

私はこれまで博物館館長の職務を歴任してきましたが、元来の日本文化のエキスパートではありませんでした。だからこそ、館長に就任してからは、日本について見ること聞くことの何もかもが新鮮で、まさかこの年齢になってこんなにわくわくする毎日を送ることになるとは思ってもみませんでした。

今回の来日でも、東京に加えて新潟県の燕三条を訪ね、ショップで扱うための素晴らしい工芸品を見て回ってきました。特に工房まで訪ねて見てきたノミは、その鋭利さだけでなく種類の多さ、美しさにも魅了されました。また、ウイスキー樽で貯蔵したという珍しい日本酒との出会いもありました。

ジャパン・ハウスに携わるようになってからの一番大きな発見、それはヨーロッパではこれまでアートとは鑑賞するための非日常のものだったのが、日本では日用品から道具に至るまで、お茶からお風呂に至る毎日の生活の中にあまねく存在するということ。機能を突き詰めることで逢着する美の領域がある──そう気づいた時の感動の大きさは、言葉では言い尽くせないものでした。


ジャパン・ハウス ロンドンの外観イメージ。元はデパートだったアールデコ調の建物をリノベーションしている。(Interior design by Wonderwall)


インテリアデザインを担当するのは、ロンドンでも実績のあるWonderwall片山正通。地元でも名の知られた人物だ。(photo: Kazumi Kurigami)


ショップのある1階のイメージ。日本食レストランのある2階、展示・イベントスペースのある地下の3フロア構成。(Interior design by Wonderwall)

衝突の代わりに文化を通じた相互理解を

私の責務は、そうした西洋にない精神や美意識、価値観を、ジャパン・ハウスを通じてもたらすことにあります。ロンドンはもともと人と文化と経済の交点であり続けた、多様性を受け入れる土壌を持った街です。だからこそ、知っているつもりでまるで知らなかった、等身大の日本との出会いを通じて異文化に触れ、私たちが一元的に考えがちな物事には、実はさまざまに異なる解釈やアプローチが可能なのだという気づきを与えるには絶好の場所なのです。

世界は昔もいまも、異文化を持つ相手に対しては問答無用で武力で相手をねじ伏せようとしてきました。しかしいまの私は、文化が国と国とをつなぐ架け橋となれることを強く信じています。ジャパン・ハウスは衝突ではなく理解と融和の形で、日本とイギリス、そして世界をともに豊かにできるということを、きっと立証するきっかけの場所となるでしょう。特に、EU離脱問題に揺れる我が国にあっては、膠着したヨーロッパではなく、遠い日本からもたらされる異文化との邂逅にこそ、次の時代に進むための叡智が秘められていると思うのです。

そのためにも開館後は、ディスプレイの仕方からトイレの行き届いた掃除に至るまで、ありとあらゆる要素において、来館者に驚きと感動を与えられるように心を砕いていきたいと思っています。ここでのどんな小さな体験ひとつも、日本に対する印象をどれだけ簡単に左右するかを考えると、胸が高まると同時に身が引き締まるような思いもありますね。



マイケル・フーリハン◎アイルランド・クレア州出身。北アイルランドとウェールズの国立博物館、ニュージーランドの博物館でキュレーターやディレクターを歴任後、ニュージーランド文化遺産省でアドバイザーを務める。


JAPAN HOUSE LONDON◎ジャパン・ハウス ロンドン。地下鉄ハイ・ストリート・ケンジントン駅からすぐの、目抜き通りに面した6階建ての歴史的建造物中の3フロアに設置予定。●101-111 Kensington High Street, London, W8 5SA UK(photo: E. Selby)
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文=大野重和

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